旧広島市民球場跡地に関する考察

概要

というわけで、旧市民球場跡地をどうすべきか、という話について。

流れをざっと説明すると、マツダスタジアム完成後、広島市は旧市民球場を解体して広場を作る、という方向で動いている。ただ、市議会や市民団体などから反対意見も多く、スムーズには進まない状態が続いていた。で、昨年市議会で秋葉市長の工作が炸裂し、不信感を残しつつも旧市民球場は廃止となり、バックネット裏と一塁側内野スタンドについては現在解体中。ただ、旧市民球場の跡地を実際にどうするのか、という点については、議会を通過するには至らず、おそらくは今年度中には解決しない。跡地問題は今年4月に行われる市長・市議会選挙の重要な争点となるだろう。

ちなみに市が現在だしている案はこれ[archive]。ただし、この案を額面通りに受けとるべきでは無い。秋葉氏のことだから、この案は、論争を引っ張るためのダミー込み、と理解すべきだろう。例えば商工会議所とか商工会議所とか。ようするに、市の案は「暫定」ですら無く、状況次第で別物になる可能性を多分に残している。

さて、私の見解だが、先にいってしまうと、「旧市民球場は『本当に有効利用できそうなごく一部』以外はとっとと解体して、イベント広場とサッカースタジアムを作るべき」ということになる。なぜなのかについては後述。

背景

旧市民球場跡地については、様々な観点による問題が絡んでおり、「万人にとって最良となる」ような絶対的な解決策があるわけでは無い。どういう方向で跡地を開発するにせよ、何らかの取捨選択は必要になる。問題点について以下に列記する。

1. サッカースタジアムが必要、という問題

広島市をホームタウンとするJリーグクラブのサンフレッチェ広島の本拠地はビッグアーチ。広島アジア大会用に作られた、5万人収容の陸上競技場である。陸上競技場であるが故にフィールド迄の距離が極めて遠く、また、5万人というキャパは現在の動員力からすると大きすぎる。さらに、市中心部から遠いわりに駐車場のキャパも小さい。

Jリーグは、いずれは広島でも、プロ野球と並ぶ優良コンテンツに成長する、可能性を十分に有している。そして、都市に人(それも沢山税金を払ってくれる高収入の人)を引っ張っていく為には、スポーツ観戦環境を充実させる、というのは有効な術である(もちろん高収入な人のための職場の確保とか、教育環境とか他にも大事なことは沢山あるんだけど)。ただし、まだプロサッカーは規模が小さいため、「大きく育てる」ための支援が必要だ。「交通の便のいいところに、プロが使うに足る(言い換えれば、収入増が十分に期待できる)専用スタジアムを作る」というのは、都市にとって、お金を出すに足る(将来、十分なリターン(税収増)が見込める)先行投資といえるのではないだろうか。

2. 野球場が足りない、という問題

マツダスタジアムは、プロ野球の都合を優先して設計されたスタジアムである。「選手が安全にプレーできる」ようにするためのアマチュア用球場と、「プレーを観客に見せる」ためのプロ用球場とでは設計思想が全く異なる。アマ用の球場は、ファールグラウンドは十分に取るべきだし、ソフトボールや少年軟式野球、リトルリーグ、ボーイズリーグ等様々な規格に対応しやすいよう、内野はクレーの方がよい(理想を言えば、アメリカのように野球、リトルリーグ、ソフトボールそれぞれにグラウンドを確保すべきだが、土地が少ない上、少年野球のグラウンドの規格がリーグ毎に異なる状況ではいかんともしがたい)。専用のコーチを置けないような小規模のチームでも活用できるよう、ブルペンは神宮のようにファールグラウンドにあった方がいいだろう。

一方、アマ用の球場は、キャパは芝生席込み1万もあれば充分だし、座席もアルミ製ベンチでOK。ナイター設備も不要だと思う。マツダスタジアムみたいにバックネット裏観客席最前列をグラウンドレベルにする必要も無いから、諸室とスタンドを効率よく(安価に)配置できるので、建設費や維持費も抑えられる。

アマ競技はアマ用の競技場を使うべきだ。

しかし、旧市民球場が無くなることにより、市内の(アマの公式戦ができるレベルの)野球場が県営野球場[archive]一択になってしまった。高校野球の予選等は、去年まで使っていなかった三原運動公園野球場[archive]や廿日市の佐伯総合スポーツ公園野球場[archive]を使えばなんとかなりそうだが、やはり市内にあと一面、できれば2面のグラウンドが欲しい所(スタンドは必ずしも必要ではない)。

3. 紙屋町再開発、という問題

旧市民球場に隣接する紙屋町地区は、90年代までは広島の中心商業地区だった。公示地価も長らくそごう前がトップだったと記憶している。しかし、現在は弱体化が進んでおり、カープの新球場移転がそれに拍車をかけた形となっている。紙屋町地区は何らかのテコ入れが必要であり、紙屋町交差点に近接したまとまった土地である旧市民球場跡地を有効活用したい、という話。

4. 復興の象徴である旧市民球場を壊すな、という問題

正直な所、この問題については私は懐疑的だ。人間てのは基本的に保守的な(特に理由が無い限り「変わらないこと」を望む)生き物だから、「壊さなくて済むようなら残したい」というのが自然な感情ではある。でも、解体に絶対反対!というほどの動機たりうるのか、というのが正直不透明だ。

実際問題として、新球場が現地建て替えかヤード跡地移転かで議論されていたときに、「復興の象徴だから市民球場を残すべき」といった意見はほとんど聞かれなかったように思われる。「野球のスタジアムとして使えるレベルに保存する」ことを主張していたのは、市職員の濱本康敬氏(リンク切れ URL: http://hwbb.gyao.ne.jp/hamamoto-pb/f122.htm)くらいしか記憶に無い。

そもそも、「復興の象徴たる市民球場を残す」という概念は抽象的であり、現状の建物を残すことと必ずしも同一では無い。「建物の完全保存」から「かつて球場であったことを偲ばせる何かが残ればいい(例えばなんばパークスのプレートとか)」まで、様々なレベルを含むものだ。実際、新球場が現地建て替えかヤード跡地移転かの議論では、現地建て替え(=旧市民球場の解体)が優勢だったはずだし、跡地に別のスポーツ競技場ができるのなら、復興の歴史は継承された、とも思うのだがどうだろう。

付け加えるなら、旧市民球場の外観部分は昭和末期に増設された部分なわけで、復興の象徴を残せ、というなら内野一階席のみ残ればいいんじゃないかと。

現在提案されている各案の評価

1. 市の跡地案

旧市民球場は、ライトスタンドの一部以外を解体して、イベント広場、森林公園、商工会議所移転、折鶴ホール、劇場などを作るというもの。

イベント広場、というのはアリだとは思う。前述のように、旧市民球場跡地は紙屋町地域への集客設備としての側面を抜きにして考えることはできない。で、それなりに人集めがしやすくて、イニシャル・ランニングコストがさほど高くないイベント広場というのは、魅力的だ。維持費が年間数千万程度で済み、かつ、代々木公園イベント広場のように週末毎にイベントができるのであれば、やるだけの価値は十分にある。仮にダメだったとしても仕切り直しがやりやすいというのも強み。

何か一つしか作れないのであれば、イベント広場、ということになる。

市の案のダメな所は、イベント広場以外のことごとくが、余計であるか、イベント広場のメリットを帳消しにするものであるということだ。特に商工会議所と売店施設。イベント広場の強みは、何をやっているのかが外から見える(イベント自身やイベントの準備その物がイベントの宣伝となる)、というものだ。だから、跡地にイベント広場を持っていく場合、南側(相生通り)と、東側(バスセンターの出入口)には障害物を置いてはいけない。また、残したライトスタンドが北側の体育館(グリーンアリーナ)へのアクセスの障害となるのも問題だ。

イベント広場以外は集客面においてコストパフォーマンスが低すぎる。とはいえ、跡地はイベント広場だけで使うには広過ぎる。

2. 市民球場を野球場として残す案

広島市議の母谷たつのり氏による提案[archive]。現在のグラウンドやスタンドを最大限活用し、野球やサッカー、コンサート等に使える設備とする、というもの。野球場とプロサッカー用のスタジアムは両立できないので、サッカー場としては人工芝のアマ用競技場と成る。

メリットは、耐震補強と座席交換、人工芝設置などで済み、イニシャルコストが最も安くあがることと、野球場を確保できること。デメリットは、集客が期待できないこと。

基本的には、高校野球の予選が最大のイベントとなるが、年10数日程度でもあり、また、7月等特定の時期に集中するイベントでもある。また、コンサートについては、騒音問題もあって大音量のコンサートはできず、また、そもそも観客1-2万人程度のコンサート需要がどれだけあるのか?という問題もある。他の球場のイベントスケジュールも確認したのだが、年間1-2回も開催できるかどうか、というレベルのようだ。あとは、グラウンドを開放してイベント広場的な使い方をする、というのが考えられる。が、道路とグラウンドとの間にスタンドが横たわる形となっているため、集客性については疑問。

3. 旧市民球場をプロサッカー場にする案

いわゆるAFH案。旧市民球場の内野スタンドをそのままサッカースタジアムのスタンドに活用し、22000人規模のスタジアムを作ろう、という案。イニシャルコストは耐震補強費用を除いて20億弱と見積もられている。ランニングコストはネーミングライツでまかなうとのこと。イニシャルコストを抑えつつ、プロサッカーのスタジアムを作ることができるというのが強み。

デメリットは2つ。一つは集客イベントが基本的にプロサッカーの試合ということになり(代表戦用としては過小)、日数が限られるという点。試合数はJ1のリーグ戦が17試合、ナビスコカップ戦の予選又はACL予選が3試合で最低20試合。ACLの決勝トーナメントが最大3試合、ナビスコの決勝トーナメントが最大2試合だから、最大でも25試合。正直な所、サッカーだけでは集客力はやや弱い。

もう一つのデメリットは、サッカースタジアムとしても今ひとつ、という点だろう。旧市民球場は良くも悪くも2リーグ化による球場粗製濫造期の球場であり、また、昭和末期の改装も決して出来のいいものではないため、プロが使うスタジアムとしては駄目駄目な部分を多分に残している。例えば一階席スタンドを通らないといけない二階席とか(一階席と二階席の間でゾーニングができず、二階席を適正なチケット価格にすることができない)、座席の前後間隔(左右間隔は椅子の交換で改善可能だが前後間隔は床面の打ち直しが必要であり、前後間隔の改善は実質不可能)とか、二階席用の諸設備(トイレとか売店とか)を十分に確保できないこととか。

また、旧市民球場の内野スタンドをそのまま使うため、スタンドへの屋根掛けは不可。また、特に一塁側スタンドは道路に隣接しているため、一旦サッカー場として開場してしまったら、大規模改装も困難(球場の外側に重機を置く余地がない)。

将来、Jリーグは今以上に多くの予算を使わないと上位進出・ACL出場が困難になる可能性は高い。であるならば、今後プロのサッカークラブが本拠地とすべきスタジアムは(プロ野球におけるマツダスタジアムのように)高い収益性が狙えるものであるべきだと思う。そのためには、難の多い旧市民球場を使いまわすのではなく、思い切って大部分新設とした方がよいのではないだろうか。

提案

と、いうことで、イニシャルコストの問題さえクリアできれば、「東にイベント広場、西にサッカー場を新設」というのが最良であると考える。具体的には、AFH案同様、西側のメインスタンドの奥行きはギリギリまで小さくする。で、フィールドを全体的に西に寄せる。東側のバックスタンド、北側のサイドスタンド(アウェイ側ゴール裏)は新設。で、空いた南東のスペースをイベント広場として整備する。三塁側スタンドは、二階席を解体し(地盤沈下してるらしいし)、一階部分のみをホーム側ゴール裏席として整備。

この案のメリットは以下の通り

  • イベント広場の集客に、プロサッカーの35万人(キャパの8割集客×20試合)が加わり、紙屋町への集客設備としては万全

  • 広場イベントとサッカーの相乗効果(サッカーの試合に合わせてイベントやったり、イベントでサッカーのチケットを販売したりとか)

  • スタジアムが西にずれるので、相生通りとグリーンアリーナがイベント広場を介してダイレクトにつながり、体育館のより効果的な利用が可能になる

  • イベント広場とサッカー場で設備(トイレとか)を共用してコストダウン

  • 体育館、サッカー場のスタンド下の諸室、スタンドの軒下などの雨天利用可能な設備をイベント広場と併用することで(単独のイベント広場よりも)多様な運用が可能

  • イニシャルコストを抑えるため、当面は屋根無しで運用し、予算に都合が付けば屋根を増設することもできる

  • 復興の象徴たる三塁側一階席を、新たな聖地=ホームサポーター向けのゴール裏席として整備

  • 西側のメインスタンドをギリギリまで小さくしたので、4万人級のスタジアムが必要になったときは商工会議所とPLの土地を確保して増設することも可能

  • スタンドの増設の際、フィールドに近い「高い席」を増やすことができる。

  • ちょうど「平和の軸線」の延長にフィールドがくるため、絵的にも優れている。海外のメディアへの絶好のアピールポイント(広島の知名度向上に貢献)

問題はイニシャルコスト。だが、この立地に専用(それもプロでの利用を念頭に置いた)スタジアムを作るなら、大幅な収入増(客単価3000円×35万+広告・物販収入)は間違いなく、年間2億程度の使用料を取ってもクラブにとっては充分ペイする範囲だと思う。で、マツダスタジアムと同様、年利2.5%の市債を発行して使用料で返済することにすれば、おおよそ42億程度は賄える計算となる。鳥栖並のスタジアム(67億)を建てるとすると、 残り25億。紙屋町地区のテコ入れとプロサッカーを優良コンテンツにするための投資としては、充分理にかなった費用ではないかと思う。

あとは野球のグラウンドだが、西飛行場廃止してそこに作ろう。

コメント(1)

  • 投稿者: Roberto Rivera
  • 投稿日時: 2011/02/06(日) 16:48[JST]

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