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第二章

前章で解説した通り、Zork(R)は当時まだスケールの小さいゲームだった。 おそらくメインフレーム版の最終バージョンの半分をちょっと越えたくらいのサイズだろう。 またまだたった一つのコンピュータでしか動作しなかった。 まだ完成してから6週間しかたっておらず、しかも全く宣伝していないというのに、国中のプレイヤー達によってかなり大きなコミュニティができあがっていた。 その時点であってもクラシックなAdventureよりも出来がよかったというのもあるが、ZorkがAdventureに続いて登場したゲームであり、他に競合するゲームがなかったことが最大の要因である。

この章の登場人物は以下の通り

  • MIT-DM

  • ITSを載せたPDP-10

  • MDL(別名Muddle、PDP-10上でしか動作しない言語)

  • Mark BlancとBruce DanielsとDave LeblingとTim Anderson(別名『大胆不敵な開発者』)

  • 多種多様のnet Randomたち

1977年の7月にこのゲームに2点要素を追加した。 なおこの後数カ月間は特に追加は行っていない(なにしろ我々は別にこれを書くために雇われたってわけじゃなかったから)。 その一つが『BKDスペシャル第2弾』である。Bruceが謎を考えた(コードの多くは他の人たちが書いたのだが)。 我々はBruceに会いに行って、そこですごく質の悪い謎を聞いた。 それが炭鉱である。実は彼が元々考えていた謎はゲームに採用されたものよりもさらにいやらしいものだった。 それでも迷路部分はほとんどオリジナル通りだだったが。難し過ぎると人気がなくなるからね。 この謎はゲームの品質向上に一役買ったが、一方炭鉱の迷路は『長くすれば難易度は上がる』という好例として後々まで語り継がれた。

もう一つは火山で、これははMarcが(川に続いて)『乗り物』を採用したシーンだが、そのことよりもたぶんコインと切手に登場する超越王Dimwit Flatheadの親愛なる肖像の与えたインパクトの方が大きいだろう。 また、川のシーン(第一章参照)と火山シーンはどちらも乗り物が登場するが、そのために時間の概念をよりゲームに適したものにしなくてはならなかった。 その結果、ボートと気球は勝手に少しずつ動き火山は時々噴火するようになった。 また、Marcはクロックデーモンを作成した。これはコマンドをある一定数だけ実行することによって起きるイベントの待ち行列を処理するプログラムである。 『乗り物による移動』をよりリアルなものにするために作られたこの仕組みによって、噴火の停止、ランタンの油切れ、ノーム(小鬼)の出現が起こるようになった。 最初に作られたのは火山のシーンのイベントである。 これは火山の真上でトラップに引っかかって気球を失った時に数回コマンドを入力するとノームが登場し、宝と引き換えに助るがどうか、と話しかけてくるのである。 これは我々の良心のたまものと言えよう。ほとんどのプレイヤーはセーブする権限を与えられていなかったので、このようなミスを犯してもそれを撤回することはできなかったのだから。 ノームの出現によってプレイヤーはこんな場合でも引き続きゲームをすることができるようになった、もちろんそのかわりに最高得点を取ることはできなくなるんだけどね。 (訳注 : Zorkにはゲームの進展度合いをあらわす指標として『ポイント』が導入されている)

『飛行』に伴う謎については火山のシーンを登場させる前から我々の議論の対象だった。 例えば、Daveは鷲とその巣を登場させたがったが、どのような制限を加えるかについては、まだ思い付かなかった。 つまり、(地面と)平行な、空中から見たマップを持つことをできなさそうだと思っていた。 この新しいコンセプトを取り下げるかどうか悩んだが、そうすると気球で火山から脱出することは出来なくなった。 そして、今一度別の新コンセプトを考えるようになった。 プレイヤーが正しくない場所で爆薬を使い、その場から脱出しなければ、2万ポンド(トンだったっけ?)の岩が頭に落ちて死ぬ。 これは、地下セクションに多大な意味を与えるものとなったが、森林セクションに対してはそうではなかった。

七月以降の数ヵ月はこれ以上の新しいセクションは追加されなかったが、改良は続けられた。 また、ついにDMのところ以外のマシンにコピーされ、プレイヤーの数は劇的に増大した。

Muddleは主としてDMで使用されていたが、TENEX(Arpanetにおいて最もポピュラーだったPDP-10用のオペレーションシステム)用のバージョンが存在した。 そして、TENEXバージョンは、ちょっといじればTOPS-20でも同じように動作させることができた。 最終的には我々がネット上のTOPS-20マシンのアカウントを与えられたときに、Zorkのコピーに体する要求の一つに屈した。 ソフトウェアに必要な修正を行った後、もちろん多くのコピーが出回った。 Zorkオーナーの為のメーリングリストが始まり、彼らはどのようなアップデートがなされたのかを知ることができるようになった。

人々は実行可能なZorkを得たものの、ソースを得ることはできなかった。 我々はソースコードの保護の為(念のためにいっておくが、DMにはどんな形のプロテクトもかかっていなかった)、2つのアプローチを行った。 ソースコードは通常暗号化されており、また、システムにパッチを加えてソースコードが置かれたディレクトリを保護した (これは"Charles F. Stanley" または "Computer Fantasy and Simulation"にちなんで、CFSと名付けられた)。 これはとてもうまくいっていたが、最終的には、DECからのハッカーによって破られた。 大昔のITS(訳注:MITで開発されたOS。Incompatible Timesharing System)のドキュメント(他意は無いよ)を使って、彼は動作中のオペレーティングシステムに手を加える方法を見つけ出した。 クレバーな彼はまた、我々のパッチがどのようにしてソースディレクトリを保護しているかについても理解した。 そして、ソースの復号化という点があるが、その後すぐに、我々が使用しているキーは見付けられた。 Tedは、難なくマシンの使用時間を確保した。 つまり、彼は最終テストに耐えうる新しいTOPS-20マシンをみつけだし、テキストのように見える何かが出てくるまで全てのキーを試すプログラムを実行した。 探索を始めてから一日もしないうちに、彼は読むことのできるソースを取得した。 我々は、多くのトラブルを見たい者は誰であれ、当然それを行うことを認めざるを得なくなった。 これは、後日他の事柄をもたらすことになった。

当初我々が採った方法ではセーブ毎に数十万バイトを要し、これはタイムシェアリングシステム上であっても課題なものであったため、この頃プレイヤーはセーブを行うことはできなかった。 この間、Marcは容量をよりリーズナブルなレベルまで小さくしてセーブする為の新しい方法を発明した。 これは、古いブームに追加された部屋やオブジェクトが既存のセーブファイルを破壊する、どのみち完全にはうまく動かないといったわずかな欠点を持っていた。 しかしながら、これはゲームのプレイを容易なものとしたが、我々は、我々のユーザにとって快いものとなる馬鹿げた概念を他にも持っていた。

77年の秋に、2つの大きな要素がゲームに加わった。 すなわち、Marcはメディカルスクールから新たな休暇を取得し(ファンの皆さんの御推察の通り、彼は卒業したのだ)、また、Daveは大規模なコーティングを成し遂げた。 魔法のバケツとロボットを完備した「アリスの不思議な国」セクションが導入された。 ロボットは、プレイヤーが可能な仕事と同じことをすることのできる最初の「アクター」だった。 命令の方法はよく知られた「ロボット、ケーキを取れ」といったものだ。 この導入によって、ゲームの制御フローに別の変更を加える必要があり、また、話すことのできる全ての物に対して変更を加える必要が生じた。

同時に、最初のバージョンの戦闘が追加された。 Daveは経験ゆたかなD&Dプレイヤーだが、彼は完全に予測可能な生物殺害方法を好まなかった。 当初のゲームでは、たとえばナイフをトロールに投げることによって殺すことができる。 彼はナイフをキャッチして大喜びでこれを食べる(彼に他の物を投げても同様だ)が、その結果失血死するのだ。 Daveはまず最初に、多様な武器による多様なストレングス、怪我、気絶、そして死を伴う、とても複雑なD&Dタイプの戦闘を追加した。 全ての生物には固有のメッセージセットが与えられ、(短刀を使う)盗賊との戦闘は、斧を使うトロールとは大きく異なるものとなった。

ソースを隠すことが出来なくなった結果、一人のバカがゾークをフォートランに移植しようと決めた。 我々は常々、それは不可能だと思っていた。 Muddleは全然(いや、ぜーんぜん)フォートランとは違うし、ものすごく複雑だし、そのほとんどの特徴をゾークの設計に使っていたから。 そいつは基本的にはハード屋だったので、たぶんどんな困難が待ち構えているか知る由も無かっただろう。 とにかく、78年の大吹雪のちょっと後に、かれは当初はPDP-11で動作するワーキングバージョンを作った。 これはフォートランで作られていたので、実際はどんなマシンでも動作したし、そして今のマシンでも動作する。

(以下未訳)


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