ピースウイングへの道(5)市による球場跡地整備計画

(2)で説明したように、2005年9月16日に新球場の建設地が貨物ヤード跡地になることが確定した。これに伴い、メインテナントのいなくなった市民球場の利用についての議論が始まる。旧市民球場は広島市の中心市街地にあり、その土地は少々狭いもののサッカースタジアムの適地の一つとして度々挙げられていた。跡地整備計画はスタジアム問題を語るうえで重要なトピックであると考えている。

(旧)市民球場跡地活用策の基本理念

2005年9月に市が発表した「新球場建設の基本方針について[archive]において、以下の提案がなされている。

  1. 基本的な考え方

  • 現球場跡地の利用について、年間 150 万人以上を集客目標とした、新たなにぎわいとなる都市機能の導入強化を図る。

  • 新たな集客機能となる中心施設とともに、周辺の基町環境護岸や中央公園の既存施設の活用も含めた一体的な賑わい空間を目指し、本通りやシャレオなど周辺地域との回遊性を創出する。

  • 現球場の一部改修も含めた活用や、現球場を除却して新たな利用を図る場合など、幅広く検討する。新たな集客機能の導入にあたっては、厳しい財政状況を踏まえ、民間の活力とノウハウを十分活用する。

  1. 今後の進め方

    現球場跡地の利用について、民間事業者から幅広く提案を募集するとともに、各種団体及び専門家などから意見を聴取し、市民意見の募集や議会の議論を経て、今年度中に新たな集客機能の方向性をとりまとめ、平成 18 年度(2006 年度)に利用計画を決定する。

  2. スケジュール

    平成 17 年度(2005 年度)

    新たな集客機能の方向性とりまとめ

    平成 18 年度(2006 年度)

    利用計画の決定

    平成 19・20 年度(2007・2008 年度)

    事業着手のための準備

    平成 21 年度(2009 年度)

    事業着手

このように年間150万人の集客を目標とする賑わい施設を作ることを掲げたが、この時点で市がどの程度本気で考えていたかは疑わしい。当時優先されるべきことはまず新球場をヤード跡地に作ることに賛同してもらうことであり、年間150万人という目標設定は現地竹替えを希望する地元商店街などを納得させるための方便に過ぎないのではないか、とも思われるからだ。新球場がもくろみ通り成功するのであれば、例え跡地の施設の集客数が目標に届かなくても批判はシャットアウトできるだろう。

民間からの提案募集と選考

この基本理念に基づき、2005年11月15日から翌年1月20日の期間に民間からの提案を募集した[archive]。集まった提案は、市民・各種団体から377件、事業者から26件、経済4団体[1]からの提言が1件であった。

事業者からの提案26件の中には、サッカースタジアム推進プロジェクトで提案された観覧車、水族館つきのスタジアムを含めサッカースタジアム案が4件提案された[2]。この提案に対し広島市民球場跡地利用検討会議が3月8日、3月20日、5月21日の3回にわたって行われ、事業者提案26件のうち11件を選定した。サッカースタジアム案はいずれも「閉鎖された空間(サッカースタジアム)が新たに出現し、大規模施設(サッカースタジアム)により平和記念公園と中央公園とが分断される提案であり望ましくない」との評価であり[3]、おそらくこれが理由で選定から外れた。

この11件に対して事業計画案を募集したことろ、6件の計画案が出された[4]。この計画案に対して広島市民球場跡地事業計画案及び事業予定者選考委員会[archive]にて選考がなされた。選考結果は8月26日に報告されたが結果は最優秀案無しとなり、以下の優秀案2件が選定された[5]

  • 池原義郎・建築設計事務所による「平和祈念堂」

  • エヌ・ティ・ティ都市開発による「水な都(みなと) Mother's Stage」

これに対して2007年から2008年にかけて商工会議所から意見があり、その内容も反映させたうえで2008年に基本方針を作成した。この方針では、上記優秀案2案を合わせたようなものに加えて商工会議所提案の新たな賑わい施設を追加するというものとなった。

私の推測に過ぎないが、このあたりで市は跡地でやりたいことが決まっていたのではないだろうか。「折鶴ホールを中心とした『平和祈念堂』」のアイディアを基本方針に残した点に、市の意図を感じる。目的は「折鶴ホールといういかにも市長好みのアイディア」を残すことで、批判を折鶴ホールに集約させることだと思う。実際にこのアイディアは「折鶴を展示するためのホール」→「折鶴展示機能を持つホール」→「折鶴展示機能無くします」と段階的に後退しており、実のところ市にとっては無くなっても困らない要素であった。秋葉市長自身もこのプランには否定的である

このたたき台に対して2008年9月16日から10月10日までの期間、市民からの意見募集を行っている。当初は2009年度からの事業着手を予定していたが、反対意見も多かったのか検討は続けられることになる。

基本方針策定・跡地委員会

その後、2010年6月に「旧広島市民球場跡地整備の概要と新たなにぎわいづくりに向けて」が発表される[6]。この資料の中でイベント広場計画が登場する。この計画をたたき台に市民各層からなる委員による跡地委員会が2011年10月から2013年1月にかけて開催され、2012年8月には中間とりまとめが、2013年2月に最終報告が発表された。

中間とりまとめでは「文化芸術機能」と「緑地広場機能」が委員の賛同を得た一方、「スポーツ複合型機能」(サッカースタジアム)については意見が分かれることとなった。最終報告ではこれら機能単独、或いは複数の機能の組み合わせた以下の案が提案されたが、結論を出すには至っていない。

  • A案-1 緑地広場(イベント広場)

  • A案-2 緑地広場(スポーツチャレンジフィールド。やるスポーツの為のスポーツグラウンド)

  • B案-1 文化芸術施設とイベント広場の組み合わせ

  • B案-2 文化芸術施設とスポーツチャレンジフィールドの組み合わせ

  • C案 大型の文化芸術施設

  • D案 スポーツ複合施設(サッカースタジアムを中心とした複合施設)

この委員会の結果を踏まえて市は検討を行い、2013年3月には「旧市民球場跡地の活用方策[archive]が公表された。この活用方策では、上記のB案-1が採用された。

その後、2015年1月には、この案をベースにした「屋根付きイベント広場、野外ステージ、文化芸術施設の組み合わせ」が提案された。[7]

旧市民球場跡地のイベント暫定利用

旧市民球場は2012年2月28日に解体された。跡地では2013年春に「ひろしま菓子博」が開催され、80万人の観客を集めた。跡地を含む中央公園ではこれまで国・県・市等の公共団体、又は町内会・NPO法人等の公共的団体に対してしかイベント利用を認めていなかったが、菓子博の結果を踏まえ、公共団体の後援又は協賛等があれば、民間企業主催のものであっても使用を許可することとなった。[8]

思うに、これはイベント広場としての実績を作ることで、跡地のイベント広場化への機運を高めよう、という面もあったのだろう。何としても跡地をイベント広場にしたいという市の強い意志を感じる。

イベント広場の確定

その後は跡地がサッカースタジアムの候補地に挙がっていたこともあり進展は無く、サッカースタジアムが中央公園広場に決まった後の2019年に検討が再開された。まず2019年6月に公募型プロポーザルによってパシフィックコンサルタンツ株式会社 中国支社に評価を依頼することになり[9]、有識者会議、市民からの意見募集などを経て2020年3月に「短期的にはイベント広場、中長期的にはイベント広場の東側に文化芸術施設を追加」ということになった[10]。中長期的には2015年1月時点とあまり変わらないように思える。イベント広場を先行して整備することが進展要素だろうか。

そして2021年9月28日には事業者がエヌ・ティ・ティ都市開発株式会社を中心とするグループに決まり、2023年3月31日に「ひろしまゲートパーク」として供用開始となった。

評価

広島らしいといえばそれまでだが他のプロジェクト同様、検討開始からオープンまで18年と非常に時間がかかってしまった。イベント広場とすること自体は正解だろう。というのも、広島が大都市であるためには多様性を維持・発展させる必要があるが、「気軽にイベント開催ができる広場」はその為に必要な設備だと思うからだ。そして、マイナーなイベントを成功させるためには(サッカースタジアム以上に)好立地である必要がある。サッカースタジアムは中央公園広場でも成立するが、イベント広場は中央公園広場でも厳しいと思う。

当所年間150万を目標にしていた来場者数だが、開場1年目はなんと630万人を達成[11]。嬉しい誤算となった。来場者数は徐々に落ち着いてくるだろうが。

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