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日下公人事例集 その2

Blogの方にも書いてみたのだが、 日経BP社のサイトで連載されている日下公人氏の「現実主義に目覚めよ、日本! 〜グローバル・スタンダードの罠に陥るな!〜[archive]」というコラムがすごい。 日下氏のナイスなエッセンスがこれでもか、とばかりに詰め込められたまごうことなき優れた娯楽作品である。 とにかく、これは紹介せねばなるまい。 ここでは、Blogでも触れた、連載15回目の「社会主義的な貯蓄思想では、働く喜びも生きる喜びも生まれない[archive]」に付いて紹介してみようとおもう。


保育施設は私有財産否定のため

さらにはレーニンの社会主義では、「子どもは社会が育てる。親が育てると、我が子かわいさで相続財産づくりに励むからよくない」と、生まれたときから保育園に入れてしまうなど、私有財産の否定はどんどん進んだ。

そもそも共産主義は私有財産否定が原則。 なので、私有財産否定の為に保育所を充実させる、というのはちょっと違うのではないだろうか。

これを「よいことだ」と信じて、今もやっている国は、僕は日本だけだと思う。学校では給食を出し、保育園を充実させるのはよいことだと、日本では考えられている。

アメリカなどと比べると、日本では保育所が大幅に不足しており、これが女性の社会進出を阻んでいると大問題になっている。 あと、給食制度は「教育の機会均等」という観点から、アメリカでも実施されている。 ただし、日本とは異なり、ある程度メニューを生徒が選べたり、家から弁当を持ち込んでも構わないそうだが(参考:(財)自治体国際化協会「アメリカの学校給食」)


ドイツの育児事情

これが例えばドイツでは、全然違う状況だそうだ。出産をすると「給料を3年間与えるから会社には来るな、家にいなさい」と言われるのだ。

ドイツの育児休暇は、あくまでも最長が3年というだけで、それ以前に復職しても良い。 また、給料は出ない。固定額の育児休暇(月6万円×1年又は月4万×2年)が出るだけである(参考:日本経済新聞2003年7月3日「仕事と家庭の両立を探る(上) ─ ドイツ最新情報」[archive])。

また、育児休暇中に30時間(又は夫婦で60時間)以内のパートタイム労働が認められている。 なお、この制度は2000年から始まったものであるが、長期育児制度は1992年に定められたようだ(参考:海外職業訓練協会)

あるいは、そうした施策を実行したからこそ人口が増え始めて、国外からの出稼ぎ労働者を追い返すことができるようになったのだ。

ドイツはイタリアと並ぶ、西欧でもトップクラスの出生率の低さを誇っている。 そして、比較的出生率の高いフランスは、女性の短期間での復職を可能とするための保育所が充実している、という点を付け加えておく(参考:(財)家計経済研究所による調査[archive])。

しかしレーニンは「保育するのが社会主義だ」と言った。毛沢東もそう言ったし、それに日本の左翼の運動家や進歩主義の人が続いた。さらには財務省がやっていることも、私有財産の否定だ。国家公有財産はいくら増えてもよくて、それは“賢明な”財務省が使う。民間のお金持ちをつくるな、という考えだ。

というわけで、日本はトーマス・モアの理想国になっているといっていい。しかしその結果、国民は個人主義で、親子の縁が切れてしまって、少子高齢化になったので、今、慌てて騒いでいる始末だ。

このことから、日下氏は「保育所に入れられて母親から離された子供が成長して親となった場合、子供を作りたがらなくなる」 と考えているものと予想される。 だが、上記のように、ドイツにおいても育児制度の改善が見られたのは1992年以降であり、そのころに産まれた子供はまだ中学生だ。 よって、日下氏の考察は完全に間違っている。

また、フランスでの成功例を見る限りでは、出産後も生活レベルをさほど落とさずに住むなら、出生率は上がる。 安価な保育所を充実させて女性の復職を早めたり、教育コストができる限り低くなるような制度を整えることによって、 出生率は増大する。 その分税金は高くなるはずだが・・・・ ん?てことは、フランスの方がトマス・モアの理想国とやらに近くて、しかもそれで出生率も改善できているってことじゃないか。


マンションと社員食堂

それが日本にはまだ公団住宅などがあって、同じ間取りの家がぎっしり並んでいる。それで育った人は、成功して大金持ちになっても、同じ間取りが並ぶ「億ション」を買って満足している。学校は給食で、会社でも給食に近い社員食堂。

もっともこれは最近は壊れてきて、サラリーマンは街へ出て弁当を買うようになった。オフィス街には「引き売り」の弁当屋がたくさんやってくる。これは、固定資産税を払わないし、儲かっても税金を払わないだろう。その分だけ安く弁当を食べられるから、サラリーマンも喜んでいる。

いや、お金持ちが億ションに住むのって、忙しくて24時間いつでも出社できる体勢を整えておく必要があるからでしょ。 アメリカだって、弁護士とか会社のエクゼクティブクラスは高級アパートメントでしょうに。 なお、私はマンション育ちだが、一戸建てに住みたいと思っている。

あと社員食堂。日下氏にとってのサラリーマンって大企業の都心本社ビルに勤務している人なのだろうか。 中小企業に社員食堂なんか無いし、郊外の事業所では飲食店がまわりに存在しないので、 必然的に社食が必要になるのだが。 ちなみに、アメリカの大企業の場合、製造業は本社を郊外や地方都市に置くことが多く、 当然の如く社員食堂は完備。

あと、弁当屋の進出って社員食堂とバーターなの? 本社ビルの社員食堂を減らしたっていうニュースは聞いたこと無いんだが。 どっちかっつーと、定食屋なんかの飲食店とバーターなような気がする。 それから、弁当屋さんも、ちゃんと税金は払っていると思うぞ。


貯金をおろして使おう

だから「郵便貯金も銀行預金も全部下ろしてしまいなさい」と、僕はかねてから言っているのだ。

では下ろしたお金をどうすればいいかというと、根本的には貯めるのがよくない。貯めるな、使ってしまえ、ということになる。貯めるのがよいと誰が決めたのだ? それは「働き過ぎ」と同じ。働き過ぎもよくない。だから「遊びなさい」と僕は20年前から言っている。自分にその権利があるのだから。

みんなが貯金を降ろしたら、金融機関の活動が停止して、借金もできなくなるわけで。 借金ができなければ、住宅ローンも組めないので非常に困る。 「賃貸に住めば」というかもしれんが、賃貸住宅をたてるのだって普通は銀行から資金を借りて行うわけだし。 クレジットカードだって、一種の借金なわけで。 カードが使えないのってむちゃくちゃ不便。 そういや、カードで借金してまで消費活動をする、というのが数年前にブームになって、信用不良者が大量に発生した国がすぐ隣にあったはずだが、日下氏はその国を手本にすべき、と考えているのだろうか。

つーか、貯金って「いつか使うために」するもんでしょ。 平均寿命からすると、停年退職から20年近くは生きていくことになるわけだし、そのときの生活費の足しくらいは無いと困るだろうし。 つーか、こんなことをいっている日下氏は「宵越の銭は持たない」生活をしているのか?

それから、「貯金をあまりせずに使ってしまう」てゆーのはここ最近の傾向でもあって、今の20〜30代って結構「豊かさ」を実感してるんだよ。 んで、その結果として子供をもうけることに対して抵抗が出るようになって(共働きの家庭で子供を作る、というのがどれだけの収入減、支出増につながるのかを考えると・・・)、抵抗が出てきている。


まとめ

日下氏がここで述べていることをおおざっぱにまとめると、以下のようになる。

  1. 少子化は社会主義的保育制度のせい

  2. 子供は飯を食べさせれば服従する

  3. 貯金をせずに消費活動に充てよ

(1)は完全に間違いで、むしろ保育制度を充実させた方が小子化対策になる。(2)については判断できない。 (3)については日下氏が提案するまでもなく現在進行中で、それは隣国の経済状況を見る限りではお薦めできない。 というのが、このコラムを読んだ総括的な感想。


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