大阪ドームと広島新球場
- 公開日: 2005/10/10(月) 23:04[JST]
ここ数ヶ月、広島新球場問題について、田辺一球氏のブログ「破滅のシナリオ広島編」が怪気炎を上げているが、最近の田辺氏の論調はちと疑問だ。
例えば現時点での最新の記事。
この大阪ドーム(言い換えれば大阪市)と近鉄との球場使用に関する取り決めが近鉄バファローズの消滅に直結したことはすでにご承知の通り。地元自治体と球団の関係の失敗例を如実に物語っている。簡潔に言えば自治体が借金で器を造ってもプロ野球はペイしない、ということだ。
翻って広島市とカープ。両者が新球場建設に向けて膝をつき合わせて話込んだ話は聞いていない。広島市議会本会議はいよいよ明日が最終日。その前にhttp://www7.ocn.ne.jp/~hirano30/index.htm
広島市議会議員、平野博昭氏のHP「新球場建設の基本方針について」に目を通しておかねばならない。
ヤード跡地に建設するつもりの新球場は市の起債事業であること以外、誰がいくら出してくれるのか、何も決まってはいない。
まず第一に、近鉄バファローズ消滅の原因としては大阪ドーム関連は主要なものではない。近鉄グループのリゾート部門の破綻が最大かつ直接的な要因だ。近鉄グループの負債は一兆五千億円。球団の年間30億の赤字とか問題にならないくらいのレベルである。このため、親会社の税金対策としての球団の価値が消失した。このため、資産価値のあるうちに球団の売却を目論んだ、というのが実情だろう。
大阪ドームの使用料が問題なら藤井寺に還れば済む話だ。それでもなお、近鉄は球団売却に踏み切った。大阪ドーム使用料の年間10億が無かったとしても、残念ながら近鉄バファローズは解散していただろう。
つまり、大阪ドームに関しては、「地元自治体と球団の関係の失敗例」とはいえない。イベント収入を当て込んで必要以上に豪華な設備を作ってしまった三セクと、巨人戦の放映収入が計算できない上に阪神に客を取られるという不利な条件ゆえに数十億の赤字計上が常態化している球団のどちらも致命的といえる問題を抱えており、「自治体と球団の関係」というレベルの問題ではない。
大阪ドームを教訓とするならば、以下のような結論となる。
球場は、プロ野球用の設備として必要にして充分なものでよく、建設コストは極力抑えるべきである。多目的用途など以ての外。
球団は親会社の援助に過度に依存すべきではない。宣伝費として妥当な額程度にとどめるべきである。新聞に企業名を載せる/ユニホームに企業ロゴを入れる対価としては10〜15億/年程度が適切だろう。
個人的には、新球場はヤード跡地に作るべきだと思う。理由を以下に述べる。
かつて岩国に住んでいた者としての所感だが、広島都心は30〜60km圏の集客力に欠ける。その理由は、大規模輸送機関のターミナルと商業エリアとが分断されているためだと思う。郊外から思うように集客できないため、商業地区が発展せず、またそのために都市周辺の人口も増えない、という悪循環が続いているように感じられる。
プロ野球という興業は試合数が多く、また平日開催が多いため、普段から人通りの多いところ、つまり商業地区に隣接した所に球場を建てないと、(特に広島のような小都市では)集客が困難だ。そういう意味では商業地区のすぐ側にある現在地は優れているが、それでも足りない。いかんせん周辺人口も、商業地区の集客力も小さすぎる。この状態のまま現在地に新球場を建てたところで、カープの集客性が改善されるとは思えない。市民球場を使い続けたとしても大差無いだろう。つまり、現在地に新球場を建てても、それだけではカープ破滅のリスクは変わらない。田辺氏は、現在地建て替え案を主張しているが、この場合、カープの収益性は大して改善されず、球場建設費も回収できない(球団からの年6億と球場のネーミングライツ程度しか期待できない以上、市の持ち出しと成らざるを得ない)という、市にとってもカープにとっても、そしてファンや市民にとっても好ましからぬ結果になる可能性が高い。僕が市の立場なら、やはり現在地に市の負担で新球場を建てるのは反対する。大金を投じても問題解決にならないなら、やらない方がましだから。そして、どうせカープを失うのであれば、市の規模の縮小を前提に、縮小均衡モデルで財政の健全化を行うしかないだろう。
この状態を打破するためには、商業地区の交通の便を大幅に改善するか、交通の便のよいところに商業地区を移すべきだ。前者を採用する場合、高架ないし地下鉄で西広島−紙屋町−広島駅を連絡する必要がある。が、そのためには1000億を軽く越える出費が必要だ。とてもじゃないが今の広島市にできることではない。
それに比べて、後者の案はかなり魅力的だ。まずヤード跡地に集客施設たる新球場を作り、駅前に人を呼ぶ。勿論プロ野球だけでは大した集客にはならないが、これをきっかけに駅前の開発が民間主導で進むことに期待したい。駅前に商業施設を集約できれば、郊外から駅前への集客を喚起し、駅前ににぎわいを形成することができる。そして駅前ににぎわいを形成できれば、球場への集客も期待できる。うまくやればヤード跡地の西半分を高値で売り抜けることができるだろう。球場建設費のうち、数十億は回収不可能だが、郊外から市内への集客(とその帰結としての税収増)のための投資として考えるなら、安い。
ただし、新球場を建てても駅前再開発を誘導できなければ、カープは赤字に耐えきれなくなり、消滅する可能性すらある、というリスクをこの案は抱えている。だが、このままでもカープの破綻は時間の問題であり、低コストで抜本的な改善の見込みがある本案に賭けてみたい、というのが一カープファンとしての率直な思いである。