キーボードの配列について考えてみる
- 公開日: 2009/05/25(月) 00:20[JST]
はじめに
きっかけはコデラノブログ3のJISキーボードという喜劇というエントリと、そのエントリに関する批判なんかを読んだこと。率直に言ってしまえば、当該エントリはちょっとアレな内容かと思う。Dellの国内仕様PCがJISキーボードなのも、学校用PCがJISキーボードなのも単にこの国ではJISキーボードが圧倒的多数だからでしょう。アップルも1994年頃まではUS配列+カナだったけど、現在ではJIS配列になっているわけで。
しかし、だ。早くからIT教育は立派なことであるが、この子たちが大人になる頃は、ネット社会も成熟して国境がなくなることだろう。国際社会の一員ともなれば、英語でメールやメッセージのやりとりを行なう機会も、今よりもっと多くなる。
そうなったとき、その子供たちは英文をタイプするために、もう一度キーボードの英語配列を覚え直すことになるのだろうか。欧米に留学するときに、日本からキーボードだけ持って行くのだろうか。なんかそれって、すげえ無駄なハードルを作っているだけのような気がするのだが。
つーか、これだけPCが普及したんだから、英語教育が始まれば必然的にQWERTYも使わざるを得なくなるでしょ。それに、キーボードを覚えるのって、単にキーの位置を覚えるというよりも、頻度の高い文字の並びに対応した「指の運び」を(感覚的に)覚えるという側面もあるわけで、ローマ字かな変換であっても、相応の訓練は必要でしょう。それに、QWERTY配列って、アルファベットに親しんだ欧米人にとって分かりやすい(DからLまでの子音が横一列に並んでいるところとか)配列なわけで、50音表で表音文字を把握している日本人にとって親しみやすい配列とは思えない。(たとえローマ字カナ表記を教わった後でも)英語教育を始める前にローマ字入力を学習するのって、手間じゃないかな。そう考えると、学習と言う観点からは、初等教育でいきなりローマ字かな入力を教えることに大きなメリットがあるとは思えない。あと、ローマ字かな入力って、カタカナ語をローマ字表記で把握しがちなわけで、これって英語教育という面からは弊害になりうるんじゃ無いかな。
そう考えると、学習手順としては、まずかな入力を教えた上で、英語教育と平行してQWERTYを教える、てのが妥当なんじゃないかな。
あと、こんだけPCが安くなってるんだから、留学時はキーボードどころかノートPC持ち込みでしょ。学校据え付けのPCで日本語入力をすることを想定しているのかも知れないけど、そーいうPCやWSの場合、そもそも日本語IMEが入っている保証もないし。なお、日本語IMEさえあれば英語キーボードでもJISかな入力はできるんで。タッチタイプが出来ない人がちと不便、てのはあるけど、そうなったらそうなったで結構短期間でJISかなのタッチタイプができるようになると思う。むしろキーボードにかな文字が書いてない分、早く学習できそうだ。
とはいえ、現在のJISキーボードが文章の入力に適さない、という側面も間違いなくあるとはおもう。
むろん、JISキーボードの規格であるJIS X6002が制定された頃は、日本語の文章をコンピュータで大量に入力することなど想定されていなかっただろうから(新JIS、すなわちJIS X6004の制定時には考慮されている)、当時の判断が間違いでは無かったとは思う。PCの106キーボードにしても、その登場時はGUIのショートカットにCtrlが割り当てられることは想定されていないわけで。
しかし、コンピュータの使われ方も、そしてコンピュータの機能も大きく変化した現状を考慮するなら、そろそろキー配列にも多少の変更が必要ではないか、と考える次第である。なお、以下の記載では、キーの位置を説明するためにISO 2530のキーボードレイアウト(和田英一東大名誉教授のけん盤配列にも大いなる関心をの3. キーボードの規格より転載)を使用する。
文字キー及びシフトキーの配置
JISキーボードの最大の欠点は、何といっても「右手小指が届かない位置に文字キーや右シフトキー)が配置されている、という点だろう。右手の小指が比較的すんなり届くキーは、10列(「/」「;」「p」「0」)と11列(「ろ」「:」「@」「-」)、12列のC〜E段(「]」「[」「^」)。E段13列の「¥」とB段12の右シフトは押しやすい位置にあるとは言い難い。
では、USキーボードならいいか、というと、こちらも13列のD段かE段に文字キーが配置されている。JISキーボードよりはましではあるが。
こう考えると、基本的なキー配列は、ヨーロッパで主に使用されるISO 2530準拠の配列がよいのでは無いだろうか。バックスペースがE段13まで、右シフトがB段11まで伸びており、上記のJISキーボードやUSキーボードの問題は解消される。一方、B段00(Zの左)にも文字キーが配置されており、これと、E段00(JISキーボードでは「半角/全角」)に文字を割り当てれば、文字キーの数もJISキーと変わらない。はじきとばされる「(¥)」と「_」だが、ISO 2530どおりにそれぞれB段00とE段00に置くのが良いだろうか。現状のJISからの違和感の少なさ、という点からは逆でも良いかもしれない。
そうすると、今度は右シフトがやや長過ぎるような気がする。
Enterの位置
Enterは、改行や、変換確定に使用される。プログラマなど、Enterキーを多用する人にとっては、ホームポジションから手を離さずにEnterを押せる、というのはかなり重要なことであるとは思う。しかし、通常の用途であれば、Enterキーが押されるのは、段落がえやブラウザのフォーム入力時の変換確定など、キーボードによる文字列の入力が一段落したときに限られると思う。ということであれば、Enterは101キーボードのようにC段12と13にまたがった形状ではなく、106キーボードや欧州の102キーボードのようにC段13とD段13をEnterとし、C段12は単独の文字入力キーとするのが良さそうだ。プログラマな向きには、C段12もEnterに割り当てれば済む。その場合は、文字キーが一つ減るが、「_」を「シフト+0」に、かな入力ならさらに「ろ」をどこかのキーのシフト入力(シフト+けあたりが妥当か)に入れればよいだろう。
日本語の標準配列
日本語を効率よく入力する、という観点であれば、JISかな配列よりもニコラ、新JIS(JIS X6004)、中指シフトの花配列、或いは新JISの中指シフト実装である月配列などが良いのだろうが、キー配列の良し悪しは「覚えやすさ」というポイントもある。皆が皆、タッチタイプできる必要があるわけじゃないし。で、JISかな配列は比較的同じ行の文字が固まっているため、他の配列と比べて覚えやすさという点では一歩上回っている(事実、京大安岡孝一助教授の「キー配列の規格制定史 日本編— JISキー配列の制定に至るまで」によれば、JISかな配列 のベースとなったかな文字タイプライター配列は、覚えやすさを重視したとのことである)。それに、JISかな配列はさして効率の悪いものでもない。
と、いうことで、標準のかな配列はJISかなでよいだろう。WindowsでもX11でもMacでもキー入れ替えソフトはあるわけで、より効率のよいかな入力を行いたい向きは適宜入れ替えて使えば良いだろう。問題は、「ろ」と長音記号をどこにおくべきかだが、正直どっちでもいい(ニコラでもシフトX、シフトCで隣同士のしかも低頻度文字用の位置だし)。まあ、左右入れ替えで長音記号をE00、「ろ」をB00でいいと思う。
JISかな入力の欠点として、英数入力モードに切り替えないと、英数、特に数字が入力できないというものがある。この問題を解決する方法として、右Altに「英数シフト」機能を割り当てるというのはどうだろう。つまり、かな入力時であっても、右Altを押しながらであれば英数文字を入力できるというものだ。西欧諸国では、アクセント付きの文字やユーロ記号などを入力するために右Altを一種のシフトキーとして使用しており、Altは左側のみでも特に問題はないだろう。
日本語関係の機能キー
106キーでの日本語関係の機能キーは、「半角/全角」「英数」「変換」「無変換」「ひらがな」の5つ。このうち、「半角/全角」と「ひらがな」は機能が かぶるため、まとめても良さそうだ。また、「変換」「無変換」は独立したキーではなく、スペースバーを左右に2つに割って、そこに割り当てるのがいいのではないだろうか。スペースバーを割ると親指シフトに容易に対応できるというのもポイント高し。あと、「英数」は残しておいた方がいいだろう。マルチウインドウのシステムが標準となり、モニタの解像度も高くなった現在、英数入力かかな入力かの判別がとっさにつかなくなることが多い、そのため、「無条件にかな入力に切り替え」→ひらがな、「無条件に英数入力に切り替え」→英数はあった方が便利。これらの機能は使用頻度が高いので(Ctrlとのコンビネーションで実装せずに)独立したキーを用意するのがよいと思う。
スペースバーの長さだが、このキーが親指の内側(右手なら左側、左手なら右側)の側面で押されることを考慮すると、少なくとも人差し指のホームポジション(F及びJ)の真下まで伸びていることが好ましい。と、いうことで、左右それぞれ通常のキーの二倍程度かそれ以上の長さとするのがよいと思う。
その他の機能キー
Ctrlキー
Ctrlは、元々はその名の通り制御記号を入力するためのキーだった。そのような用途であるならば、昔の日本のコンピュータのように、Aの左にCtrlを配置するのが適切かと思う。しかし、その本来の機能は、今ではWindowsのコマンドプロンプトやUNIX/Linuxのシェルを使っているユーザくらいしか使用しない。Windows3.1の登場以来、このキーはGUIアプリケーションのためのショートカットキー、つまり、Macintoshのコマンドキーの役割を主として担うことになった。このCtrlキーの役割は、その後Linuxに伝播した。かつては、LinuxやFreeBSDにおけるX11アプリケーションのショートカットに使用されていたのはAltキーだったが、現在ではWindowsと同様Ctrlキーである。
上記の点を考慮するならば、左Ctrlは、Macのコマンドキーと同じ位置、つまり、Z及びXの真下に配置するのがベストだろう。プログラマな向きはキーを入れ替えて使うということで。
右Ctrlは、正直どこに置いても良いと思う。
Altキー
Altキーは、現在のウインドウズでは、Ctrlと併用してショートカットキーとして使用したり、メニューバーやアクティブウインドウの制御に使用される。また、西欧では一般的に上記の用途には左Altのみが使用され、右Altは各言語特有の文字を入力するために使用されることが多い。
いずれにせよ、A段に置いておくキーだろう。左Altは、左スペースと左Ctrlの間に一文字分の空きがあったので、そこに押し込んでみた。右Altも、AltGrとしての用途を考慮すると、右スペースの右に置くのがよさそう。
Windowsキー
109キーボードで追加されたキー。Windowsでは、主としてシェルであるエクスプローラ(メニューバーやスタートメニュー)を操作するためのショートカットキーとして使用される。ちなみに、X11では、Super_L、Super_Rという呼称である。左Windowsキーは、109キーでは、CtrlとAltの間だが、この私案では左Ctrlを右にシフトさせているので、左Ctrlの左に配置せざるを得ない。まあ、このキーの用途からいって小の場所でも問題なさそうだが。
右Windowsキーも、どこに置いても問題なさそう。ノートなんかでは省略されていることも多いし。
Applicationキー
Windowsでは右クリックと同様の操作を行う際に使用される。X11でも同様である。その性格からいって、カーソルキーのそばに置くのが適切だろう。
まとめ
以上の点に基づいてキーを再配置したものが、上の私案である。左下隅に空きが出来たが、ノートPCや小型キーボードで採用されているFnキーを置くための余地としてあえて空けている。なお、この図を作るに当たって森山将之さんのサイトにあった109キーの図を流用させていただいた。感謝しつつ、森山さんのブログのキーボード私案の記事にトラックバックを打ってみる。
...なんというか、右シフトが長すぎるのが気になる。Enterとアプリケーションキーの間にもう一つキーを配置しても良いかもしれない。