広島市長選2015を考える
- 公開日: 2015/04/11(土) 13:12[JST]
もう明日が投票日なのでとりあえず書いておこう。私は広島市民じゃないけど、投票するとしたら消去法で松井氏。
現職はどうよ?
現職・松井氏の1期めを見てて感じたのは「この人『市長という役割』をこなしてるだけじゃね?」というもの。政治理念みたいなものはあまり感じられないし、リーダーシップも感じられない。まあ自民党中央に頼まれて出馬したのだから仕方ない、という部分もあるだろうが。62歳だしあと1期4年やって引退というプランなんじゃなかろうか。ただ松井氏自身もその辺りは自覚しているはずで、余計なことはあまりせず(ちと口が軽めのところはあるが)「自分の仕事は下から上がってきたプランを議会と周辺自治体、県に諮って実現に持ち込むこと」と割り切っている感がある。
で、それは不味いことなのか?という問題。一般的にはダメなんだろうが、来期くらいまでだったら悪くはないよね、とも思う。秋葉前市長時代からここの役所は「あえてダメなものを表に出して世論や議会に反対させて最終的にやりたいことを通してしまう」という手法を結構とってくるので表に出てくる部分は結構批判の対象になりやすい。折鶴ホールとかオリンピックとか、今だとアストラム延伸なんかがそうじゃないかなと見ている。前市長時代から継続して実行されたものなんかは割と合理的だとは思うしバス交通の最適化とかはちゃんと議論している。
まあ要するに松井氏とは別の真のリーダーが役所内にいて今のところそれはうまく機能しているんじゃないかな、と。いつまでもこういう体制でいることがいいこととは思わないけど(役所の中の人だって世代交代するわけだし)後1期くらいなら大丈夫じゃないかな。
小谷野氏の勝算は?
正直厳しいよね。自民・民主の推薦はそんなに拘束力が強いとも思わんけど、松井氏陣営の政策って、災害対策と交通網整備を重視してて何気に郊外住民向きになってるんだよね。無党派層がむしろ松井氏に流れるんじゃないかな。意見の分かれる部分について主張を明確にしない、というのも現職の選挙戦略としては正解。組織頼みで油断しているというわけでもなさそう。
対して小谷野氏。「目覚めよ!広島!」ということで危機意識を煽るやり方。いや危機意識を持つことは大事だと思うよ。でもたぶん票にはあんまりつながらないんじゃないだろうか。選挙で票を入れる際に気にするのは「生活に直結する身近な問題を解消する具体的な方針が示されているか」じゃないかと思うわけです。対して、潜在的な危機を解消するための政策って即効性が無いからウケは悪い(やんなきゃいけないのは間違い無いけどさ)。選挙戦略としてはどうかと思うわけです。
あと、基本方針と具体的な「重要課題に関する施策」がスタジアム関連を除いてズレてるよね。何でかも想像できるけど。これらの施策って元々自民党保守クラブの面々がいってることが中心だから。サンフレッチェのコアサポ以外の数少ない支持母体の要望を安請け合いしちゃってる。この手の選挙で番狂わせを起こそうとするならば無党派層(≈新興住宅街に住む20後半~40代を中心としたファミリー層)の掘り起こしが鍵となると思うのだが、施策はどちらかというと保守クラブの支持層である「都心や古くからの集落に昔から住む高齢者層」という無党派層と対照的な層の要求を満たすものとなっている。
それから、対立陣営を罵倒したり嘲笑したりするのは身内の結束を高めるだけで集票には逆効果だと思う。この手の戦略でうまくいったことってある?この前の次世代とか失敗例しか思いつかない。身内はそれで盛り上がっちゃうだけにやめられないんだよねこれ。小谷野氏の公式Twitterアカウントでも悪ノリしてる(魚拓)しなぁ…
小谷野市長はうまくいくのか?
結論からいうと期待3割不安7割。サッカースタジアム検討協議会やサンフレッチェ主催のシンポジウムの内容(又聞きだけどさ)から受ける小谷野氏の印象はこんな感じだった。
元外資金融だけあって「目的の為に手段を選ばず」タイプ。
小谷野氏のところに上がってくるデータの質が悪く、そのデータを根拠とした「手段」も基本悪手
裏を取らずに安易に発言していることが多い。協議会で「それいっちゃダメだろ。そこ追求されたら詰みかねんぞ」と思わざるを得ない発言を結構連発している。幸いにして他の委員は気づかなかったようだが。
むろん経歴が示すように基本的には優秀な人物であることは間違いない。ただ、機能する条件が非常に限られるタイプでもあるんだろーな、というのが正直な所感。多分、優れた戦略眼の持ち主である(適切な戦術目標を与えられる)プランナーの下で、優秀な(ちゃんとしたデータをきちんと取ってきて分析できる)スタッフをつけられれば非常にいい結果を出すだろう。イメージとしては西武→横浜の森監督に近い。トップよりも「優れた組織の行動隊長ポジション」が適任。
彼はプランナーとしても組織の編成者としても正直今ひとつ(プランニングがしっかりしていたらスタジアム協議会がグダグダになることも無かったろうし、組織編成がしっかりしていたらダメダメなデータが小谷野氏に上がってくることも避けられただろう)。なんで、自身の理念を通すために「間違ったことを強引かつ全力でやりにいく」という不安感は拭えない。地方の緩やかな衰退に対処するという名目で取り返しのつかないトドメをさしてしまうのではないか、と。
また、旧市民球場跡地問題についても気になる。基本的には27000人のサッカースタジアムを跡地に、というのが基本線なわけだが、これを実現するためには、少なくとも武道場の解体が必要(今は消えているが小谷野候補の政策にも武道場の建て直しに関して言及があった)。また、サンフレッチェによる夢スタジアム案から一貫して青少年センターが跡地から消えており、スタジアムが跡地の敷地(特に使い勝手のよい南東部)を独占する形となっている。「サッカースタジアムでなく多目的スタジアム」と称しているがプロサッカー以外の用途で使い勝手がよいようにも思われず、「多目的スタジアム」は「サッカー専用スタジアム」の単なる言い換えに過ぎないのではないか。「障害となる施設を排除してでも跡地にサンフレッチェ専用スタジアムを」が本音では無いかと思わずにはいられない。
(何度も書いているが)私自身は跡地にサッカースタジアムを作るべきと考えている。ただ、各種イベントや文化芸術、それに各種アマチュアスポーツは大都市にとってプロサッカー以上に重要であり、サッカースタジアムはこれらの機能を損なうものであってはならず、むしろサポートできるような施設であるべきだ(そうするならばスタジアムの規模は2万人台前半まで抑えることになるだろう)。そして夢スタジアム案や小谷野氏のスタジアム案からは「プロサッカー以外の用途」に関する配慮が(申し訳程度にしか)感じられない。そこが残念でならない。
以上が不安7割部分。「市長になれば市役所幹部が部下になるので、そこから上がってきたデータに基づいて現実的な方針に転換してくれるのではないか。彼自身が優秀な人物であることは間違いないわけだし」というのが期待3割部分。ただし、この場合は保守クラブの期待を裏切るものになるため、議会の大半が敵に回るというハードモードの船出となるだろう。その状況で思い通りの行動ができるだろうか。
小谷野氏は市と対立せずに市のアドバイザー的ポジションになって市内企業の支援などをやってもらうのが、彼の優れたポテンシャルを有効に生かすという点でも最適解だったのではないかと思う。