旧市民球場跡地にサッカースタジアムを建てることのデメリット

私自身は旧市民球場跡地にサッカースタジアムを建てるべきだと考えているが、デメリット面もきちんと把握しておいた方がいいと思うので。

ぶっちゃけ「いいスタジアムを建てるのがかなり厳しい」という一点に尽きる。理由は以下の2点。

(1) 高さ制限の問題

旧市民球場跡地には25メートルの高さ制限(南側の旧三塁側スタンド付近は20メートル)がある。「市が勝手に決めた基準だからいざとなったら撤回できる」という意見もあるが、それは楽観的に過ぎるかと。前も書いたけど、原爆ドーム付近のバッファゾーン内の高層ビルについてICOMOS(国際記念物遺跡会議。ユネスコの世界遺産に関する諮問機関)が強く懸念を示している(ソースリンク切れ URL: http://www.law.kyushu-u.ac.jp/programsinenglish/hiroshima/Hiroshima_Recommendation_Japanese_English_final.pdf)。市の都合でこの基準を外した場合、「日本は世界遺産の景観に配慮しない」というメッセージを送ることになり、原爆ドームが世界遺産から外れるだけでなく、日本の他の世界遺産にも影響が出る可能性だってある。おそらく国がストップをかけるだろう(市民球場跡地って国有地だし)。高さ制限撤回の可能性よりも、Jが人工芝を認める可能性(後述のピッチ掘り下げが現実的な可能性となる)に期待した方がまだマシというレベルだと思う。

で、25メートルの高さ制限内で屋根つきのスタジアムを建てる場合、断面図を描いてみると分かるのだが、十分なスタンド傾斜(というかピッチの俯瞰角度)を確保しようとするとキャパが制限されてしまう。長野のスタジアムが高さ25.5メートルであるため、普通に作るなら15000~18000人くらいのキャパになってしまう(長野のスタジアムはガンバの新スタジアムと同様竹中工務店の設計であり、屋根の構造は類似している。この構造は竹中工務店の特許に記載されているものであり、高さを抑える為の構造とのことである)。

「これくらいの傾斜なら許容範囲だろう」ということで考えてみたのがこのスタジアム案 。バックスタンド二階席の傾斜を30度以下にして、メイン・バックスタンドの合計キャパが13260人。ゴール裏を完全個席にするなら23000~24000人、ゴール裏をベンチ+立ち見にするなら28000~29000人、というところが(現在だけでなく将来に亙っての)上限かと。

もちろん、ピッチを掘り下げればキャパをもっと増やすことは可能。でもそうすると芝の育成がすごく難しくなる。(掘り下げ式の)豊田や神戸なんかは芝を年に何度か張替えて対処[archive]しているとのこと(コストは一回数千万。あとグランパスは瑞穂、ヴィッセルはユニバーがあって、張替え中でもJの試合が開催可能だからできることかもしれない)。また、大分では扇風機をガンガン回して空気を循環させて対処している(それでも不十分のようだが)。

(2) まちづくり上の問題

跡地は何だかんだいって一等地(商業利用が制限されるとはいえ)。スタジアムだけでなく、イベント広場や各種文化・芸術・教養施設にとっても最良の立地、というよりこれらの施設は都心でないと効果的に利用されない。

でもって、これらの施設は都市にとって間違いなく必須。人が何で都心に集まってくれるか、というと「そこでしか得られない/体験できないものがあるから」だと思うんだ。言い換えると「専門性・嗜好性の強い多様な娯楽を提供できること」というのが都心に求められる条件だと思うわけだ(文化・芸術・教養だって一種の娯楽だよ。スポーツ観戦もね)。で、イベント広場や各種文化・芸術・教養施設ってのは、間違いなくそういう施設で、なおかつ採算上民間では難しい。

むろん、そのための複合スタジアムなわけだが、旧市民球場跡地は「いいスタジアム」と「使い勝手のよいイベント広場や各種文化・芸術・教養施設」とを両立できる程には広くない。どっちかを妥協する必要がある。いいスタジアムであることを最優先するとサンフレッチェのスタジアム案[archive]になるわけだが、この案は「プロサッカー以外」の為の施設は十分とは言い難い。一回目のシンポジウムで出たスライドの平面図(サンフレッチェはなんでこれを公開しないんだろう)から推定する「サッカー以外の為に用意されたスタンド下のスペースの面積」は一フロアあたり2000平方メートルくらい。2フロア(スタンドへの動線なんかを考えるとこのあたりが妥当かと)で4000平方メートル。スタジアム案に伴ってどっかに消えた青少年センター(7500平方メートル)にも満たない。

あと、サンフレッチェ案は、

  • プロに特化しすぎて他の球技イベント(女子サッカーとかアマチュア球技)を開催する際の使い勝手が悪く、運営コストがかかるのではないか(他の球技イベントも前述の「専門性・嗜好性の強い多様な娯楽」の一つであり、都心で開催すべきイベントである)。

  • (まだできてから20年ちょっとで十分耐用年数内の)武道場を作り直すことが前提となっているが、そのコストは誰が負担するのか。サンフレッチェが全面負担するなら検討に値するが、(本来必要のない建て替えコストを)県が負担するというのはおかしい。

という点も気になる。

「プロサッカー以外」の観点からすると、フロア面積20000平方メートルの屋内施設+イベント広場5000平方メートルくらい確保できれば満足。という視点で考えたのが前述のスタジアム私案。スタジアムのグレードをベアスタ+αくらいに抑えて他の施設と十分共存できるようにする、という考え。建築コストも下がり、サンフレッチェ以外の球技イベントにも使いやすく、イベント広場の補助施設(飲食系イベントにおけるトイレとか)としても有用で、市にとっても十分acceptableではないかと自画自賛したり。

欠点は、サンフレッチェの売上があまり大きくならない、ってこと(それでも現状に大して+5~8億/年くらいの収支改善は期待できるので、「現状の経営難を脱出する」には十分かと)。このスタジアムで足りなくなるくらいにクラブが伸びたら、その時は宇品あたりに移転すればいいと思うんだ。その頃には郊外でも十分集客できるようになっているだろうし。

個人的には、サンフレッチェ案でも割と短期間(10数年くらい)で足りなくなるんじゃないかと思うんだ。だったらむしろ今は低コストなシンプルなスタジアムに抑えて、「次」のスタジアムの為のお金をなるべく用意しやすい状況にする、というのも一つの考えかと。残ったスタジアム?リバプールみたいにもう一つクラブを作ればいいじゃない。広島はリバプールよりは大きい街だしへーきへーき。

コメント(0)



Note

本サイトのハイパーリンクの一部は、オリジナルのサイトが閉鎖してしまったため"Internet archive Wayback Machine"へのリンクとなっています。そのようなリンクにはアイコン[archive]を付与しています。

本サイトはCookieを使用しています。本サイトにおけるCookieは以下の三種類のみであり、Cookieの内容に基づいてサイトの表示を変更する以外の用途には用いておりません。