oyainputをカスタマイズしよう

前回の記事は汎用的でなくわかりづらいのでリライトします。

概要

oyainputは「Linux + X Window System + fcitx又はibus」の環境で親指シフトを実現させるソフトです。これまではLinuxで親指シフトを実現するためにはfcitx-anthy又はibus-anthyを利用する必要があり、かな漢字変換エンジンとしてあまり変換効率の良くないAnthyを選択せざるを得ませんでした[1]が、oyainputではmozc(Google日本語入力のかな漢字変換エンジンのオープンソース版)を利用可能となり、快適な親指シフト環境が可能となります。

基本的な利用方法は上記の公式サイトや、Qiitaの@inwskatsube氏の投稿に書かれている通りです。ある程度のキーカスタマイズ[2]は可能なのですが、そのままでは「xmodmap[3]との併用時に期待通りに動作をしてくれない場合がある[4]」「oyainputが想定していない文字を入力することはできない」という制約があります。本記事では、ソースコードに手を加えることでこの制約にとらわれない詳細なカスタマイズを行う方法を提供することを試みています。その際、チュートリアルとして英数入力モード含めFMV-KB613風の配列にするカスタマイズを行います。

原理

Linuxにおいては、OSのカーネルが「押された(又は離された)キーの情報」であるkeycodeを出力します。アプリケーションはキーイベント(キーが押されたか離されたか)を検出すると、X11からkeycodeを得てこれを文字情報であるkeysymに変換して処理します[5]。その際、日本語入力モードであれば、XIMという仕組みを介してIMEとやり取りして日本語に変換されたテキストを得ることができます[6] [7]

oyainputは、日本語入力時に同時打鍵を含むキー入力を検出すると、keycode自体をすり替えてしまいます。例えば、右親指キーとセミコロンの同時打鍵を検出した場合、この同時打鍵を「x押→x離→t押→t離→u押→u離」にすり替え、結果的に「っ」が入力されます。また、親指キーと8の同時打鍵を検出した場合は「左シフト押→8押→8離→左シフト離」にすり替えて「(」が入力されるようにします。

このように、oyainputはkeycode自体をすり替えるものであるため、xmodmapを使って大幅にキーボードのレイアウトを変更している場合は希望通りの入力ができなくなる可能性があります[8]。また、そもそも標準のローマ字かな変換テーブルに登録されていない文字(,.等)は入力できません。

チュートリアルの目標

FMV-KB631の配列をベースに、下記のような特徴をもたせるレイアウトにしてみました。

  • 昔の106キーボードに刻印されておりNicolaに含まれていない£々¬¢を小指シフトで入力できるようにする[9]

  • 原則としてJIS X201 Roman相当の全角記号は全て入力できるようにする。具体的には上記£々¬¢や単独打鍵とかぶってしまう;+:*|を追加する

  • \と¥の両方を入力可能とする[10]。つまり、右シフトの左のキーでは従来通りのUTF-8コードx7E、バックスペースの左のキーではユニコードでの(全角でない)円記号つまりUTF-8コードxA5を入力可能とする[11]。かな入力時についても同様

結果としてレイアウトは下図のようになります。IMEはfcitx-mozcを採用します。

/static/images/blog/oyayubi.jpg

ステップ1: ローマ字かな変換テーブルの設定

ローマ字かな変換テーブルに無い[]『』.,£々¬¢/\用のテーブルを追加する必要があります。oyainputは小指シフト面については何もしないので、£々¬¢については必然的に=~|*に割り当てることになり、=|*には別の文字を割り当てる必要が出てきます(〜については"z-"というローマ字かな変換テーブルが設定済であり、oyainputも〜を入力したい時はz-のkeycodeにすり替えているため対策不要です)。fcitxでは記号類についてはzに続く一文字で出すように設定しているようなので、これに合わせて以下のようにしてみましょう。

=

£

~

|

¬

*

¢

z=

z|

z*

z[

z]

z(

z)

z.

z,

z/

z\

z"

z'

ステップ2: 英数入力時のキーボードレイアウトの設定

一般に英数のカスタマイズは、ホームディレクトリに .Xmodmap というファイルを作り、oyainput起動後に xmodmap ~/.Xmodmap を実行することによって行われます。このチュートリアルでは

  • :→バックスペース

  • @→: *

  • ]→@ `

  • バックスペース→] }

  • ¥→¥ |

の5つですね。この場合.Xmodmapの内容は以下の通りです。

keycode 48 = BackSpace
keycode 34 = colon asterisk
keycode 51 = at grave
keycode 22 = bracketright braceright
keycode 132 = yen bar

この意味ですが、例えば二行目の keycode 34 = colon asterisk は「keycode34のキーの単独打鍵で:、シフトキーとの併用で*のkeysymを出力する」を意味します。今回は文字キーの入れ替えのみですが、モディファイヤーキー(シフト、コントロール等他のキーとのコンビネーションでkeysymを出力するキー)やロックキー(ロックされているかどうかで出力されるkeysymが変わるようなキー)の入れ替えを行う場合はもう少し複雑な書き方になります。keycodeは xev コマンドを実行することで取得できます。

ステップ3: oyainputのソースコードの修正

上述のようにoyainputは日本語入力時に単独打鍵、左右親指シフトとの同時打鍵があった時にkeycodeをすり替えるソフトです。どの打鍵が合った時にどの文字(=複数のkeycode)が出力されるのかは設定ファイル ~/.oyainputconf で設定可能ですが、未定義の文字については当然設定できず、また、xmodmap実行により出力されるべきkeycodeの組み合わせが変わってしまう場合もうまく行きません。そのため、ソースコードを修正する必要があります。

出力ローマ字は oyastate.c 内で [MOJI_ローマ字名] = {KEY_keycode名1,KEY_keycode名2,KEY_keycode名3} といった形で定義されています(入力されるべきキーコードが2つ以下の時は、残りの設定箇所には0を入れます)。ここで注意すべきことは、keycode名はUSキーボードがベースになっており、JISキーボードのキーの刻印とは必ずしも一致しないということです。keycodeとkeycode名の対応はUbuntuであれば /usr/include/linux/input-event-codes.h に記載されています。なお、keycodeの値も上述のxmodmap用のものと異なります。keycodeは sudo showkey -k で調べることができます。主要なkeycodeとkeycode名、JISキーボード上での刻印、実際に出力される文字の対応を以下に示します。一般的な109キーボードでは半角/全角キーはGRAVE、カタカナひらがなキーはKATAKANAHIRAGANAであることに注意下さい。

keycode

keycode名

JISキーボードでの刻印

実際に入力される文字(xmodmap実行後)

13

EQUAL

^ ~

^

14

BACKSPACE

Back Space

]

26

LEFTBRACE

@ `

:

27

RIGHTBRACE

[ {

[

40

APOSTROPHE

: *

Back Space

41

GRAVE

半角/全角

(半角/全角キー)

42

LEFTSHIFT

Shift

(左シフトキー)

43

BACKSLASH

] }

@

51

COMMA

, <

,

52

PERIOD

. >

.

53

SLASH

/ ?

/

89

RO

\ _

\(バックスラッシュ)

93

KATAKANAHIRAGANA

カタカナ ひらがな

(カタカナ ひらがなキー)

124

YEN

\ |

¥(円記号)

125

LEFTMETA

Window

(左Windowsキー)

126

RIGHTMETA

Window

(右Windowsキー)

127

COMPOSE

Menu

(メニューキー)

以上を踏まえて oyastate.c を以下のように変更します。

修正:

[MOJI_BS] = {KEY_APOSTROPHE,0,0}, /* MOJI_BS 90 */
[MOJI_SLASH] = {KEY_Z,KEY_SLASH,0}, /* MOJI_SLASH 92 */
[MOJI_LKAGI] = {KEY_Z,KEY_LEFTSHIFT, KEY_8}, /* MOJI_LKAGI 94 */
[MOJI_RKAGI] = {KEY_Z,KEY_LEFTSHIFT, KEY_9}, /* MOJI_RKAGI 95 */
[MOJI_LBRACKET] = {KEY_Z,KEY_RIGHTBRACE,0}, /* MOJI_LBRACKET 96 */
[MOJI_RBRACKET] = {KEY_Z,KEY_BACKSPACE,0}, /* MOJI_RBRACKET 97 */
[MOJI_PERIOD] = {KEY_Z,KEY_DOT,0}, /* MOJI_PERIOD 111 */
[MOJI_COMMA] = {KEY_Z,KEY_COMMA,0}, /* MOJI_COMMA 112 */
[MOJI_DAKUTEN] = {KEY_Z,KEY_LEFTSHIFT,KEY_2}, /* MOJI_DAKUTEN 116 */
[MOJI_HANDAKUTEN] = {KEY_Z,KEY_LEFTSHIFT,KEY_7}, /* MOJI_HANDAKUTEN 117 */
[MOJI_RKAKKO] = {KEY_BACKSPACE,0,0}, /* MOJI_RKAGI 119 */

追加( [MOJI_RKAKKO]〜 の次の行から):

[MOJI_ATMARK] = {KEY_BACKSLASH,0,0}, /* MOJI_ATMARK 120 */
[MOJI_BACKSLASH] = {KEY_Z,KEY_RO,0}, /* MOJI_BACKSLASH 121 */
[MOJI_EQUAL] = {KEY_Z,KEY_LEFTSHIFT,KEY_MINUS}, /* MOJI_EQUAL 122 */
[MOJI_SEMICOLON] = {KEY_SEMICOLON,0,0}, /* MOJI_SEMICOLON 123 */
[MOJI_PLUS] = {KEY_LEFTSHIFT,KEY_SEMICOLON,0}, /* MOJI_PLUS 124 */
[MOJI_COLON] = {KEY_LEFTBRACE,0,0}, /* MOJI_COLON 125 */
[MOJI_ASTERISK] = {KEY_Z,KEY_LEFTSHIFT,KEY_LEFTBRACE}, /* MOJI_ASTERISK 126 */
[MOJI_BAR] = {KEY_Z,KEY_LEFTSHIFT,KEY_YEN}, /* MOJI_BAR 127 */
[MOJI_CIRCUMFLEX] = {KEY_EQUAL,0,0} /* MOJI_CIRCUMFLEX 128 */

これに合わせて、 common.h も以下のように変更します。

変更前:

#define MOJI_RKAKKO 119
#define MOJI_MAX 119 // last index

変更後:

#define MOJI_RKAKKO 119
#define MOJI_ATMARK 120
#define MOJI_BACKSLASH 121
#define MOJI_EQUAL 122
#define MOJI_SEMICOLON 123
#define MOJI_PLUS 124
#define MOJI_COLON 125
#define MOJI_ASTERISK 126
#define MOJI_BAR 127
#define MOJI_CIRCUMFLEX 128
#define MOJI_MAX 128 // last index

さらに、 config.c も以下のように変更します。

変更前:

        {"RKAKKO",119},
};

変更後:

        {"RKAKKO",119},
        {"ATMARK",120},
        {"BACKSLASH",121},
        {"EQUAL",122},
        {"SEMICOLON",123},
        {"PLUS",124},
        {"COLON",125},
        {"ASTERISK",126},
        {"BAR",127},
        {"CIRCUMFLEX",128},
};

変更後、主なMOJI名と実際の文字の対応は以下の通りとなります。

MOJI名

実際の文字

KUTEN

KUTOUTEN

LKAKKO

RKAKKO

LBRACKET

RBRACKET

LKAGI

RKAGI

SLASH

CIRCUMFLEX

ステップ4: 設定ファイルの編集

以上のようにソースコードを編集し、oyainputを再ビルド、インストールします。一旦oyainputを実行して ~/.oyainputconf を生成した後、このファイルの末尾に以下の行を追加します。

KEYADD=Q:KUTEN
KEYADD=EQUAL:CIRCUMFLEX
KEYADD=LEFTBRACE:KUTOUTEN
KEYADD=RIGHTBRACE:DAKUTEN
KEYADD=BACKSLASH:ATMARK
KEYADD=RO:BACKSLASH
LKEYADD=EQUAL:EQUAL
LKEYADD=BACKSLASH:SEMICOLON
LKEYADD=LEFTBRACE:COLON
RKEYADD=EQUAL:EQUAL
RKEYADD=BACKSLASH:PLUS
RKEYADD=LEFTBRACE:ASTERISK
RKEYADD=RIGHTBRACE:HANDAKUTEN
RKEYADD=RO:BAR

そして、oyainputとxmodmapを再起動すれば完了です。

コメント(4)

  • 投稿者: daiki
  • 投稿日時: 2019/05/12(日) 07:07[JST]

(投稿者URL: http://www.ktjdragon.com/ktj/ktjs-blog/http//)

スパムが酷いようなので対策お願いします。
URLはダミーです。

  • 投稿者: 大田
  • 投稿日時: 2019/06/24(月) 10:55[JST]

(投稿者URL: https://eee-life.com/kb/setting/linux)

「親指シフト表記付きUSBライトタッチキーボード」という商品を販売しております大田と申します。
現在、xubuntuにoyainputをインストールしていまして、半角モードでも「:」キーをBackSpaceとして使えるようにxmodmapで設定しても、oyainputの方で挙動がおかしくなるので悩んでいました。
しかし、掲載されている手順で解決しました。貴重な情報を公開してくださりありがとうございました。
私のサイトでもこの方法を紹介したいと思っております。
また、今後「無変換キー」と「Space」を入れ替える方法も探索しようと思っています(左親指キーに機能を割り当てるため)。

  • 投稿者: 親指シフト最高
  • 投稿日時: 2019/06/24(月) 10:55[JST]

「ステップ4: 設定ファイルの編集」に、
KEYADD=EQAUL:CIRCUMFLEX
とあります。
EQAULはEQUALの誤記でしょうか?

  • 投稿者: KtJ
  • 投稿日時: 2019/06/26(水) 20:42[JST]

ご指摘ありがとうございます。

EQAULはEQUALの誤記です。修正いたしました。

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