渡辺保裕のバンドッグス三部作を振り返る(4)異世界三冠王
- 公開日: 2021/12/11(土) 15:24[JST]
- 更新日: 2022/11/05(土) 12:33[JST]
第三作にして現時点での最新作が「異世界三冠王」である。前二作とは代わり、最近流行りの異世界転移・転生ものであり、それに野球を絡めたというもの。
概要
「異世界三冠王」は名門チーム「関東バッドッグス」の4番にして三冠王7度の大打者・鳥倉雲平(とりくら・うんぺい)を主人公とする全18話・単行本2巻の作品である。週刊漫画ゴラクに2021年3月から7月にかけて連載された。各話のタイトルは「〜の三冠王」で統一されている。
タイトルの通り、JRPG風のファンタジー世界(ただし魔法はない)に転移した主人公が、降りかかる様々な困難を野球によって半ば強引に解決しながらチームメンバーを揃えていく、という内容となっている。ナインが揃ったところで完結となった[1]。
リーグ構成
本作においてはプロ野球の試合は主題ではなく、第1話の日本一決定シリーズの試合と、鳥倉の追憶として触れられる程度である。登場するチームも3チーム+大リーグ1チーム(デトロイト・タイガース)のみである[2]。ヤマトリーグ・ジャパンリーグの2リーグ構成であり、各リーグの優勝チームが日本一決定シリーズである「ニッポンシリーズ」に出場できるシステムである[3]。少なくともヤマトリーグはDH制を採用していないようだ[4]。
- 関東バンドッグス
東京を本拠地とする名門チーム。ヤマトリーグに所属している。ただし過去(15話の回想。鳥倉入団後)にはニッポンリーグ所属となっており、ヒューストン・アストロズのようにリーグを変えたか、或いは1リーグから2リーグに変わった可能性がある。
帽子・ヘルメットの色は濃色でロゴはカクカクした自体のB。ホームユニフォームは白地で胸にヘルメットと同じロゴで色は赤とオレンジの中間くらい。ビジターユニフォームは登場していない。第1話に登場したホームユニフォームの背中にはネームはついていないが、最終話等に登場した北田のユニフォームの背中にはネームが入っている。また、11〜12シーズン前、鳥倉が24歳だった頃のホームユニフォームも登場しているがこちらは藤井寺時代の近鉄そのもので、ヘルメットには犬のマーク。
本拠地スタジアムは、前作のライバルチームの本拠地と同名の銀座スタヂアム。モデルは作者自身も指摘している通りコロラドロッキーズの本拠地、クアーズ・フィールド[5]。鳥倉24歳の時点でこの球場を使っている。
- エンターティナーズ
前二作にも同名のチームが登場している。第1話、バンドッグスが優勝し、鳥倉がサヨナラホームランで7度目の三冠王を確定させた9/25の試合の対戦チーム。地域名は不明。前述の鳥倉24歳時のスコアボードにも"E"で示されるチームが登場している。
- 京都スターズ
エンターティナーズと同様前二作に同名のチームが登場。ジャパンリーグの優勝チーム。帽子・ヘルメットの色は白でロゴは濃色の星の中に京都タワー風の「京」の文字。ユニフォームはホームが白地で中央に「KYOTO」、ビジターは濃色地で中央に筆記体の"Stars"。ズボンはどちらも白。ビジターユニは背中に選手のネーム入りのものとネームなしのものの2パターンがあるようだ。
本拠地スタジアムは現ヤンキースタジアムに似た京都球場。「熱球時代」にも同名の球場が登場しているがそちらはピッツバーグのPNCパークがモデル。
「熱球時代」に登場した蕪木平によく似た選手が登場している。その選手は蕪木と同様スイッチヒッターであり背番号も同じ17。
第16話の鳥倉の回想シーンで、「死球を与える西武・東尾らしき投手」「死球を受けてヘルメットのつばが破壊されたアフリカ系打者(近鉄デービスには似ていない。ヘルメットのロゴはシカゴ・カブスに似る)」のイメージが描写されている
第1話にて「これで我が軍(『関東バンドックス』とルビ)はリーグ優勝&シリーズ出場」との記載
第1話に登場する銀座スタヂアムのスコアボード(バンドッグス攻撃中)には対戦チームの各選手の守備位置が表示されるが、そこに指名打者らしき名前が載っていないため。
https://twitter.com/watanabeboshi/status/1413130792205574151
異世界の設定
バージット・ファレックス皇国、マンドレッド国、グバート合衆国、フラン国の四国が登場する。
- バージット・ファレックス皇国
ヒロインであるアン・バージットを皇帝とする国。先帝トマス・バージットの崩御をきっかけにアレクヌーズ卿によるクーデターが勃発し、アン達は国を追われて再起を図る。その時に彼女と追手の前に鳥倉が転移する。
アレクヌーズ卿による圧政で人口が1年で2/3に減少した。「国難にはバージット国とグバード国 マンドレッドコクの三国を統べるという"トリプルクラウン"現れ秩序を回復す」という伝承がある。
首都はファレクシリア。王城はファレックス城。ファレクシリアと川を挟んで対岸に交易の都ムボラックがある。
- グバート合衆国
アレクヌーズ卿の出身国。武を重んじる国柄で闘奴(グラディエーター)による決闘が重要な娯楽となっている。
- フラン国
この国の貧民少女が奴隷兵士白魔王隊を構成する。
- マンドレッド国
最終話にヒトコマのみ登場。
主要登場人物
プロ野球
- 鳥倉 雲平(とりくら うんぺい)
主人公。背番号3(24歳の時は背番号90)。関東バンドッグスの主砲であり35歳にして通算7度の三冠王である。捕手としても一流でありまた強肩。右バッターでありポジションは捕手。異世界転移のきっかけとなったデッドボールによる傷と、第2話冒頭で受けた矢の傷が左眼の下にある。背番号がピッチャー側から見えるほど体をねじる打撃フォームが特徴(西武 森友哉に似る)。
シーズン最終戦で覚醒剤所持疑惑により逮捕・勾留されニッポンシリーズでは最終第七戦まで出場なし。
名前は三冠王の英語よみ「トリプルクラウン」から。
- 北田 圭
名字の読みは「きただ」。背番号19。バンドッグスの内野手であり鳥倉の「盟友」。ただし逮捕以降鳥倉には批判的。ヘルメットの形状化は右打者と思われる。最終話で異世界・マンドレッド国に転移している。
- 大木
鳥倉が高校時代バッテリーを組んでいた右投手。高校三年生ながら速球は時速150kmであり、準決勝までの全試合を完封している。最終話にも「OHKI」と背中にネームが入ったユニフォームの選手が登場(グバート合衆国に転移)している。
- M.カブレラ
鳥倉が日米野球で対戦したアメリカリーグのデトロイト・タイガース所属のメジャー三冠王。背番号24。モデルはデトロイト・タイガース所属・2012年アリーグ三冠王のミゲール・カブレラ。
異世界
- アン・バージット
ヒロイン。野球をする際のポジションは二番セカンド。
- ゾエ
身長推定4m以上の少女。アレクヌーズ卿の特殊警護「白魔王隊」で「#11ホワイトデビル」の異名を持つ鎧剣士。ポジションは七番ピッチャーで推定時速160km以上の速球派。ピッチングフォームは野茂のトルネード投法風。フラン国出身。
- ジャスパー
「悪鬼」の異名を持つアンの近衛隊長を務める剣士。ポジションは三番ショート。
- シューレス・韋駄天・ジェーン
「韋駄天」には「ライトニング」のルビ。大柄で裸足の女性で俊足のリードオフマン。ポジションは一番センター。名前の元ネタは元ホワイトソックスの「シューレス」ジョー・ジャクソン。
- アレクヌーズ卿 四天王
アレクヌーズ卿の側近。小泉純一郎に似た「カ・アンガン」、麻生太郎に似た「カーン・ガーン」、安倍晋三に似た「カンガ・アン」、菅義偉に似た「カンガーン」の四名。名前の元ネタは「宦官」か。
- クイントリックス(クインシー)・アレクヌーズ卿
聖バージット・ファレックス皇国統一皇帝を自称する。グバート合衆国の勃興勢力のトップでもある。ポジションは九番ライト。彼が9人目の選手となったことで物語は一旦の完結となった。
幼少時においてはフィジカル・メンタル共に弱くそれが原因で二人の弟エルフィー、ハリソンと比較され家族から疎まれていた。子供の頃にファレックス国に人質として送られていた。
- ダレン
ムボラックを守る重騎士隊長。武器は大槍で「シェイク・スピアー」の異名を持つ。クーデター時に病気の娘・エイドリアナを人質にとられアレクヌーズ卿側につく。後にアン達の一行に加わる。ポジションは五番ファースト。
- オーグルビエ
合衆国のグラディエーター。名前の元ネタは元メジャーリーガーの本塁打王にして10.19の近鉄の四番、ベン・オグリビー。ポジションは六番サード(オグリビーの方は左投で一塁・外野)。褐色の肌で頭髪・ヒゲ・眉毛は白又は金髪。
- バンドッグス
王城で飼われていたマスチフ犬。
- イジュ・ウィン(IJUSWIN)
ボーガン使いのグラディエーター。モデルは日ハムファンとしても知られるタレントの伊集院光。ポジションは八番レフト。
細かい野球ネタ
- 嘘だといってよトリーー!!!
第1話。おそらくSNSの投稿メッセージ。元ネタはブラックソックス事件[6]において少年が当時のスター選手ジョー・ジャクソンに対して発したとされる「嘘だと言ってよ、ジョー!("Say it ain't so, Joe!")」[7]。
- トリクラロケット
第5話。鳥倉の強肩を表す言葉。「ロケット」は「ミサイル」「キャノン」と共にアメリカで強肩の捕手につく代名詞の一つ。
- 憩いの庭園
ファレックス城の城門のすぐ内側にある庭園で「フェンウェイパーク」とルビが振られている。もちろん元ネタはボストン・レッドソックスの本拠地球場。
- 全裸で日本刀
第10話。かつて鳥倉が行った練習。和室で全裸になり日本刀で天井から吊り降ろした紙片を斬るというもの。全裸ではなく上半身のみ裸だが、1960年代に王貞治が一本足打法を生み出すために行っていた練習である[8]。
- ナイスボーガン
第17話。イジュ・ウィンに鳥倉がかけた言葉。元ネタはなんJでヤクルト新垣に与えられた「ナイス靭帯」[9]か。
1919年のワールドシリーズで、シカゴ・ホワイトソックスの選手が加担した八百長事件。
ただし少年とジャクソンとの会話は新聞記者による創作であり[10]、当該のセリフはそれがさらに脚色されたものである。
ヤクルトに移籍した新垣渚が滅多打ちにあって降板するものの、当時のヤクルトは靭帯断裂などの怪我人が多かったため、靭帯がつながっていて投げられるだけでも称賛に値する、というネタ。