ピースウイングへの道(8)START FOR 夢スタジアム
- 公開日: 2025/08/08(金) 21:13[JST]
2011年3月より県サッカー協会、サンフレッチェ後援会、サンフレッチェの三者はスタジアム建設実現のための署名活動を開始した。署名活動は2011年シーズンのホームゲームを中心に行われ、同年10月までに12,088件の署名を集めた[1]。翌シーズンは署名活動を積極的に行わなかったようで、2012年8月2、3日に『サッカースタジアム建設の要望書』を行政および経済関係団体に提出した時点での署名は12,463件だった[2]。
この結果を受け、署名活動をさらに推進するため、活動推進キャッチフレーズとして「START FOR 夢スタジアム」を提言し、活動サイトをクラブサイト内に設置した。
署名活動の進展
署名活動は2012年12月末までに20万件を目標として進められた。署名活動は順調に進み、2012年12月27日時点で348,963件となった[3] 。その後も署名活動は続けられ、最終的には2015年12月18日時点で408,404件となった[4]。
署名サイトには、スタジアムのコンセプト画像と、署名協力のYoutube動画埋め込みがあった。この動画はWeb Archiveからは見ることができないが、時期的におそらくYoutubeにある「サッカースタジアム建設 早期実現を目指して!」だろう。
三者は2013年1月17日に369,638件の署名簿を広島市・広島県・商工会議所へ提出し、サッカースタジアム建設早期実現に向けた検討委員会の早期立ち上げを要請した。[5]
提案されたスタジアム案
当初署名サイトに掲載されていたコンセプト画像は、取り立てて特徴のない二層式のスタジアムである。場所については明記されておらず「交通の便が良く」とだけであったが、わざわざ片方のサイドスタンドを低くしていることから[6]、旧市民球場跡地を想定していたものと思われる[7]。
旧市民球場跡地は25mの高さ制限のある土地だが、南側の相生通り沿いのエリアは20mである[8]。
ただし、旧市民球場跡地を思わせる建造物(商工会議所ビルや通りの路面電車の線路等)は描写されていない。
この高さ制限は2005年に原爆ドーム周辺に高層マンションが着工され、ユネスコの諮問機関であるイコモスからも高さ制限の導入を指摘されたことをきっかけとしている。2006年11月に市は平和記念公園周辺建築物等美観形成要綱を改正し[9]、高さ制限を盛り込むことになった[10]。
ただし、法的拘束力はない。
その後、2013年5月26日に開催された『ひろしま夢スタジアム~スタジアムは、街づくり~』シンポジウムでは、正式に旧市民球場跡地で進めていく方針が決まり、周辺の建物が追加されたイメージが作成された。キャパは3万人級[11]。最初期のパースと比べると、一段高さを抑えていた片方のサイドスタンドも他のスタンドと同じ高さとなり、また北側のスタンドが武道場の上に乗っている。この案の私の所感は当時ブログに書いている通り否定的である。このシンポジウムの動画もYoutubeにアップされている。
Facebookサイト
サンフレッチェは2013年6月頃から「START for 夢スタジアム実行委員会」という名前でFacebookサイトを設置した。内容は、クラブのスタジアムに関する考え方を広報したり、マスコット♂のサンチェ名義での投稿があったりと、公式サイトなどよりも突っ込んだ内容であったと記憶している。このFacebook記事に対する当時の私の所感は以下の通りおおむね批判的だった。旧市民球場にスタジアムを建てたいという気持ちは十分理解できるのだが、我田引水的な主張が目立ち、行政を含む「サッカー以外」の人たちを説得できるものであるかといわれると疑問である。
おそらく、であるがFacebookサイトを運営していたのは当時企画・広報部長だった森脇豊一郎氏。Jリーグが企画した2009年1月のホームタウン・イレブンミリオン欧州研修にも参加しており、ポルトガル・リスボンのエスタディオ・ジョゼ・アルヴァラーデについてレポートを作成している。また、2014年のJリーグ欧州スタジアム視察にも参加しており、スペイン・バルセロナのエスタディ・コルネリャ=エル・プラットについてレポートを作成している。
2013年12月には、森脇氏のFacebook個人アカウントで松井市長の二位発言に対して怒りのコメントを投稿 しており、各所に波紋を与えた。
なお、森脇氏は2015年6月30日付で営業部事業開発担当部長に転じた。2019年にはサンフレッチェを退職し、短期間Vファーレン長崎に在籍したのちAC長野パルセイロでマーケティング部長、広報部長などを5年半務め、今年2月からバレーのSVリーグで事業開発ダイレクター[12]を務めている。
directorという語は「理事」の英訳だが、SVリーグの理事一覧には森脇氏は含まれていない。ダイレクターは理事とは別の役職、ということだろうか。
活動の終わり
その後、2016年3月にサンフレッチェ広島・久保会長によるスタジアム案が発表され、その頃にクラブの署名ページもFacebookサイトも消滅した。
評価
署名を短期間で30万件以上集めたことにより、行政側もスタジアムを検討してみようという気になったというのが一番の成果だろう。サンフレッチェの小谷野社長を含む有識者によって構成されたサッカースタジアム検討協議会は2013年6月から2014年11月にかけて計19回開催された。一方スタジアム案については(気持ちは痛いほどわかるのだが)やはり行政にとっては到底許容できないプランであり、また実現性にも疑問が残る内輪受けのものにとどまっていたと思う。