シャレオ問題5

第1回目第2回目第3回目第4回目の続き。ようやくシャレオ本体の話。

シャレオとは紙屋町交差点から東西南北4方向に伸びるエリア(相生通りと鯉城通りの地下)に形成された80店舗規模の地下街である。

紙屋町交差点は、広島バスセンターアストラムライン県庁前駅、広島電鉄 紙屋町電停などが集中する、広島の一大公共交通ターミナルである。周囲にはそごう|[archive]|広島店、広島県庁、デオデオ本店、本通商店街などがあり、広島市内でもっとも人通りの多いエリアである(シャレオ開業前の紙屋町交差点の横断者数は平日で17-8万人、休日で20万人とされている)。

この(地方都市としては)膨大な通行者をそのまま取り込めれば十分な収益が見込めるはずなのだが、現実には、膨大な赤字を抱えることになってしまった。そこで、ここでは他の地下街との比較をしながらシャレオの構造上の問題を探ってみることにする。(まちBBSなどを見ると、悪臭問題などもあるようだが、ここでは検討しない)

まず、紙屋町交差点付近の地図を見てみよう。シャレオはこの地図ではオレンジ色の枠で囲われた十文字状のエリアである。

バスセンター、広電紙屋町電停、アストラムライン県庁前駅、本通駅のうち、もっとも乗降者数の多いバスセンターはそごう広島店の3階に位置している。アストラムライン県庁前駅は交差点の北側の地下、本通駅は南側の地下にある(ホームはシャレオよりもさらに下のフロアとなる)。広電の電停は相生通りの路上に島状に形成された電停であり、横断歩道を通って一旦相生通り沿いの歩道に移動し、そこから他の場所に移動することになる。なお、紙屋町電停は交差点の東西両側に設けられている。

交差点の北西は、このエリアの中核SCであるそごう広島店、北東は県庁や広島県警などの官庁街、そして交差点の南側は銀行が建ち並ぶ金融街となっている。さらに、交差点の南側のエリアには本通り商店街が東西にのびている。

なお、シャレオの開業に伴い、紙屋町交差点の横断歩道は廃止された。

さて、他の地下街の状況を考慮すると、地下街が収益をあげるためには以下の条件のいずれかが必要になると考えられる。

  1. 複数の地下改札を連絡し、乗り換え需要である程度の通行量が計算できる地下道に商店街を併設する。(大阪梅田地下街)

  2. 通行量の多い地下改札のまわりに形成された地下街(新宿小田急エース、岡山一番街)

  3. 地下改札と、ビジネス街を連絡する地下道に併設された地下街(ドーチカ)。特に、交通量の多い道路が間にあり、信号待ちの回避が可能となる場合は有用である(東京駅八重洲口地下街)。

  4. 複数の商業ビルが林立するエリアに形成され、これらのビルを地下で連絡する地下街(ディアモール大阪、福岡天神地下街)。

  5. 地下改札と集客性の高い商業拠点とを連絡する地下道に併設された地下街(クリスタ長堀の心斎橋駅改札−東急ハンズ間のエリア、)。

  6. デパ地下の延長(京王モール)

ただし、4、6は条件としてはやや弱く、他の条件と組み合わせないと成功は難しそうだ。

ひるがえって紙屋町交差点の状況を考えてみる。まず各交通拠点からの人の移動を考えてみよう。バスセンター、アストラム改札、電停に到着した人がどこに移動するのか、ということだ。目的地は交差点北東部の官庁街か、交差点南側の金融街や本通商店街と予想される。

バスセンターから官庁街に向かう場合は鯉城通りをくぐるのみに留まるだろう。アストラム県庁前駅改札からは、シャレオを通らずに地上に出ることになるだろう。紙屋町東電停から官庁街に行く際は、地下に潜る必要は無い。西電停からは、そごうの南側から地下に潜って、鯉城通りを越えたあたりで地上に出ることになると思う。

続いて本通方面。取り合えず、アストラム利用客は本通駅を使うことになり、改札周囲のごく限られたエリアを通過するのみである。また、紙屋町電停利用者は地下に潜ること無く本通に移動できてしまう。したがって、シャレオを通過することが期待されるのは、バスセンターから本通方面に向かう客のみである。

このように、シャレオを地下道としてみた場合、多少なりとも通行量が期待できるのは、交差点−本通間のエリアのみに限定され、しかもその客は、バスセンター利用者に限定されることになる。従って、シャレオの大半は人の通行がほとんど期待されないエリアであり、唯一計算できる南部にしても、有効に通行人をさばけていることは言いがたい。

率直に言ってしまえば、交差点東西のエリアは、その存在意義そのものがありえないものであり、なぜ作ってしまったのか理解に苦しむ。また、多少なりとも計算できる南部のエリアにしてもアストラムや広電の利用者を誘導できるようになっておらず、非常に効率が悪いものとなっている。(つまり、仮に東西エリアが無かったとしても収益があるかどうかは怪しい)

以上のように、シャレオは計画の時点で破綻がほぼ確定しているものであり、このようなふざけたプロジェクトを計画した市当局や関係各者(シャレオは、もともとは本通商店街が主体となって計画したプロジェクトのようである)、そしてこのプロジェクトを通してしまった市議会の責任は重い、と思う。今後、このような馬鹿げたプロジェクトが実行されないよう、議会には意志決定プロセスの改善を求めたい。

本気でシャレオをなんとかしたいのであれば、強引に人を地下に誘導するしかない。交差点東西各200メートルくらいは横断歩道を全廃するくらいの処置をするべきだろう。紙屋町電停にはエレベータと階段を設置する(そのためのスペースを確保するため、紙屋町交差点付近の相生通りの歩道は撤廃)。ついでに、アストラム本通駅も撤廃してしまえ。ここまでやって、ようやく多少は期待できるようになると思う。魅力的な店舗の誘致とか、店舗配置とかの小手先のことはその後でしょう。

なお、中村社長を始めとするシャレオ経営陣に問題が無い、ということを言うつもりは無い。中村社長が就任したのは2004年6月ごろ。シャレオ単体ではどうしようもないことくらいとっとと結論を出すべきだった。ましてや、同じ3セクのクリスタ長堀(大阪)がその年の11月に破綻しているのだ。

加えて、いまだに自己再建が可能だと思っているのは甘い。他の地下街の例を見ても、地下街というのは人通りが期待できる地下道があって初めて成立するものであって、人の通らない地下道にどんなに魅力的な店舗を破格の条件で誘致したとしても地下街に人を集めることはできない。

次回以降は、広島市議会の議事録を検証して、どのようなプロセスでプロジェクトがふくれあがったのかを分析してみたいと思う(少なくとも昭和63年の時点では南北のエリアのみの計画だったようだ)。

なお、シャレオ問題については宮本健司市議くわた恭子市議[archive]平野博昭市議[archive]、皆川恵史市議(http://kyodo-support.com/minagawa/cgmg/cg/supp.cgi?set=3 リンク切れ)なども取り上げているので、ご参考までに。

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